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高校野球リポート

届いた大分商監督の願い。エース川瀬を中心に甲子園交流試合で「DAISHO」野球を見せつける

 

大分県高野連理事長に直談判


大分商高は23年ぶりとなる春のセンバツへの出場を決めていた(右端は主将・川瀬、撮影は昨年12月)。8月の「招待試合」では7年ぶりに、夏の甲子園の舞台へと戻ってくる


 居ても、立ってもいられなかった。

 5月20日、日本高野連が発表した「全国大会」「地方大会」の中止を受けて、大分商・渡邉正雄監督は即、行動に移している。

「県の代表校を決める夏が中止になりました。私たちが何とか勝ち得た、春の権利です。何らかの形で、甲子園で1試合でもやりたい。32校には、そういう場を与えていただきたい」

 大分県高野連理事長に直談判。その「思い」を日本高野連へと伝達してもらったという。

 3月11日にセンバツが中止になった際、日本高野連・八田英二会長が示した「救済措置」。しかし、以降は新型コロナウイルスの終息がまったく見えず、具体案さえ出せない状況だった。また、すでに夏が控えており、運営準備を進めなければならなかった事情もある。

「可能性が1パーセントでもあれば、希望を持って前へ進みたい。(甲子園での)ゲームがないまま終わるのは、あまりに苦しいです」。夏中止を受け、渡邉監督はやるせない思いでいた。そこで飛び込んできた、夢の知らせであった。

 6月10日。センバツ出場32校を甲子園に招待する「2020年甲子園高校野球交流試合(仮称)」の実施が発表された。8月10日から計6日間。各校1試合、あこがれの聖地でプレーする場が用意された。わずか1パーセントの可能性を信じた、渡邉監督の願いが届いたのだ。

 大分商高は昨夏、県大会決勝で敗退し、6年ぶりの甲子園出場を目前で逃した。秋の新チームではソフトバンク川瀬晃広島森下暢仁と同級生)の弟である本格派右腕・川瀬堅斗が、エース兼主将としてチームをけん引。

 川瀬は小学校時代から兄がプレーする大分商高のグラウンドに足を運んだ。渡邉監督は「一緒に甲子園に行こう!」と、弟を勧誘していた。川瀬は当然のように大分商高へ進学。以降、2人は「監督と選手」となったが、その絆の深さは親子同然の関係であったという。

 九州地区のセンバツ一般選考枠は「4」。つまり、昨秋の九州大会における準決勝進出校が「有力」の立場を手にできる。大分商高は福岡第一高との準々決勝を突破。準決勝はエース・川瀬を回避する選択肢もあったが、仮に負けた際には、選考段階で「試合内容」を問われることもある。すなわち、負け方が悪いと、出場枠から漏れてしまう危険性があった。渡邉監督はその「事情」を川瀬に説明した上で、先発を打診。鹿児島城西高との準決勝で完投勝利を挙げ、初戦から3連投で23年ぶりのセンバツを手繰り寄せたのだった。

完全燃焼する高校ラストゲーム


 大分には昨春のセンバツで4強に進出した明豊高という、強豪私学が存在する。大分商高は昨秋の県大会決勝(8対16)、九州大会決勝(5対13)とも、同校に大敗を喫した。渡邉監督は決して口にすることはないが、夏に甲子園に出場できる保証はどこにもない。選手層が厚いとは言えない公立校である大分商高の甲子園のチャンスは、そうはない。心の奥底では、そう考えていたはず。だからこそ、絶対的エース・川瀬を擁す春の甲子園にすべてをかけていた。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、センバツは無念の中止。そして、夏の甲子園を目指す地方大会も中止となり、渡邉監督は途方に暮れた。「夏に向け『切り替えてやっていこう』とは言っていましたが、結果的に、ほとんど練習ができませんでした。この状況で甲子園を目指す戦いができるかと言えば、1カ月では間に合いません。ケガのリスクがある。ポッカリと穴が開いてしまったような感じです」。5月11日に休校が解除。学年ごとの分散授業で、25日からは全体練習、6月1日には通常授業が再開した。だが、夏本番へピークを持っていくのは、現実的に難しかった。

 センバツの救済措置である交流戦は8月開催であり、十分な準備期間がある。甲子園で自己最速を3キロ更新する150キロの大台を目標としてきた主将・川瀬。渡邉監督に1勝をプレゼントすることも、最大のモチベーションだ。勝っても負けても、3年生にとって最後の試合。地元では「DAISHO」として親しまれている大分商高。現時点では「無観客試合」を原則としており、メディアを通じて郷土へ全力プレーと、明るい話題を送り届ける。忘れられない2020年夏。すべてを出し切り、完全燃焼する高校ラストゲームが見逃せない。

文=岡本朋祐 写真=上野弘明
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