慶大のアナリスト・佐々木勇哉はオープン戦中、ネット裏最前列でパソコンを広げ、データの打ち込みに集中している
2020年、慶大に新たなポストが誕生した。
佐々木勇哉(1年・立川高)はアナリストとして野球部に入部した。「アナリスト」とは、部員に情報を提供する専門のデータ班だ。
高校時代は水泳部(平泳ぎ)に在籍した。
「以前から野球を見るのが好きで、大学ではかかわりを持ちたいと思っていました。野球経験はないので、入部するとしたらマネジャーしかない。スポーツの分析に興味がありましたので、(指定校推薦で)入学後は野球部とラグビー部の練習を見学させてもらいました」
昨秋まで慶大のデータ班は、ユニフォームを着られない4年生で編成。リーグ戦中は睡眠時間を削り、各校の傾向を研究し、身を粉にして動いた。昨秋のリーグ優勝、19年ぶりの明治神宮大会優勝は、彼ら控え部員の尽力なくして語れない。とはいえ、あくまでも選手兼任。データ収集と分析に集中できる、佐々木のような有能な人材を探していたという。
かねてから、佐々木はデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える「セイバーメトリクス」に興味があった。また、侍ジャパンにおけるスコアラーらの特集を報道等で見る中で「自分でもチームに貢献できるポジションはある」と、新たに設置された役職へと踏み込む決意を固めた。
「相手を知ることも大事ですが、自分たちの弱みを知ることも必要。自チームを分析することで強くなると思います。この4年間でノウハウを蓄積し、私が卒業しても継続できるような慶應スタイルが確立できたらいいです」
慶大はいち早く、ボールの回転数や回転軸を計測する「ラプソード」を採用してきた。さらにアップデートさせ、神宮(リーグ戦)での「トラックマン」を含め、データを最大限に活用し、チームに落とし込んでいく構えだ。
オープン戦ではネット裏の中央最前列でパソコンを広げ、データを打ち込む。佐々木が慶大野球部の「頭脳」となる日も近そうだ。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎