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プロ野球回顧録

3試合で防御率7.02。最悪のスタートから「大記録」でプロ初勝利を挙げた野茂英雄

 

新人時代の近鉄・野茂英雄


 現在、2020年のルーキーを特集している週刊ベースボールが発売中だ。その中で「光り輝いたルーキーの記憶」と題して編集部選定の12球団別ルーキー10傑にページを割いているが、残念ながら消滅した近鉄バファローズは省かれている。やはり近鉄のルーキーと言えば真っ先に思い浮かぶのは野茂英雄だろう。

 1989年秋のドラフトでは史上初の8球団競合となり、近鉄・仰木彬監督が抽選箱の中から残り物の福を引いて新日鉄堺からドラフト1位で入団。しかし1年目、当初はなかなか勝てなかった。「なんぼ球が速くても、彼はストライクゾーン、捕手がミットを構えたところにドンピシャと投げてくる投手じゃない。だから必ず、甘い球がくる。それを見逃さずに打つのがプロでしょう」と敵スコアラー。野茂はプロ初登板から3試合、その“甘い球”を狙われ、計16イニングに14失点で防御率は7.02。22奪三振をマークしながら2敗を喫していた。

 ゆったりとしたトルネード投法で投げる上、投球数が多く、原稿の締め切り時間に追われる番記者にとっても野茂の登板は評判が悪かった。「なかなかリズムが合わない」といった味方の内野手もいたという。

“悪評”が高まる中、4月29日、オリックス戦(西宮)でそれを吹き飛ばす投球を見せた。6回に門田博光から10個目の三振を奪うと、8回まで石嶺和彦藤井康雄高橋智松永浩美と並み居る強打者から三振を奪い、14奪三振とする。そして迎えた最終回は熊野輝光弓岡敬二郎福原峰夫と3連続三振を奪い、63年の足立光宏(阪急)の記録(当時)に並ぶ17奪三振を記録したのである。打線も6本のホームランで15得点を挙げて、野茂の快記録をもり立て初勝利をプレゼントした。

「三振の記録のことなんか頭になかった。フォークが良かったので、それを柱にして組み立てた。真っすぐでストライクを取って、フォークで勝負した」と野茂。松永もこの日の最速144キロの直球より、フォークの威力に驚いたという。ネット裏のスコアラーは「投球リズムが非常に良くなった。インターバルも短くなっているので、野手も守りやすくなったのではないだろうか」と評価した。

 仰木彬監督は「さすがは野茂。これに、われわれが期待するスピードが加われば、もっとすごいピッチングができる」と“予言”したが、そのとおり野茂はこの年は18勝を挙げて新人王だけではなく投手部門のほとんどの賞を獲得、チームが優勝していないのにMVPまで受賞した。

写真=BBM
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