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盗塁で「盗む」とはどういうこと?/元中日・井端弘和に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は現役時代、たびたび好走塁を披露した元中日ほかの井端弘和氏だ。

Q.プロ野球のファンです。野球中継を見ていると、解説者やアナウンサーの方が「完全にモーションを盗みましたね」などと解説しているシーンを見かけます。「盗む」とは、そもそもどういうことでしょうか。(千葉県・45歳)


昨季は新人ながら盗塁王に輝いた阪神近本光司


 一般的にはランナーはピッチャーがモーションを起こし、それを見て「けん制はない」と判断してからスタートを切るものですが、そのモーションと同時か、ランナーのスタートのほうがやや早く、しかもピッチャーがホームに投じた場合に「盗んだ」と表現されることが多いと思います。

 キャッチャーサイドから見てみると、投げるまでもなくセーフだったり、投げてもまったく間に合わないので、お手上げ状態。そんな状態にするスタートを「盗む」と表現することが多いのではないでしょうか。

 モーションを盗むことに関して、ランナーの足の速さ、遅さは関係ありません。俊足ではないランナーでも、ピッチャーのモーションをよく観察して抜群のスタートを切る選手もいますし、相手が無警戒であることを察知してスルスルッとスタートして「盗む」こともありますね。周りが見えていなかったり、バッターに集中し過ぎているピッチャーが、クイックを忘れ、ガバッと足を上げて投げるような場合もあるのですが、勘の良い(よく見ている)選手は、このような相手のミスを見逃さずスタートして盗塁を決める場合にも「盗んだ」と表現するのではないでしょうか。

 プロでは対戦相手のデータが充実しています。スタートを切る上で参考になるものとしては、例えばけん制のパターンなどが挙げられます。2回連続けん制をしたら、(このチーム、この選手)は3回目があるのかないのか。ここで「3回目の記録がない」とデータが出ているのであれば、2回けん制をもらった直後にスタートしようという判断を下すことができます。迷いを断ち切る判断の材料とすることができますよね。

 次に参考になるのが配球のデータです。このカウントで変化球があるのか、ないのか、がとても重要で、例えば1ボール2ストライクからフォークが8割というデータがあるとしたら、ワンバウンドになる可能性も高いわけで、「スタートを切ろう」と判断ができるわけです。

 ただ、状況を読み違えてはいけません。「ここは絶対にアウトになってはいけない場面」で、いろいろ条件がそろったからと言って、少しでも刺される危険があるのにスタートを切るのはNGです。

●井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。

『週刊ベースボール』2020年7月13日号(7月1日発売)より

写真=BBM
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