週刊ベースボールONLINE

川口和久WEBコラム

「野球ができるだけで幸せです」楽天・久保裕也の清々しいプライド/ 川口和久WEBコラム

 

苦労人だからこそ響く言葉


いつでも自分が必要なら、というスタンスはカッコいいな


 楽天久保裕也が今季1勝目を挙げた。
 7月29日に一軍に上がり、翌30日、ZOZOマリンのロッテ戦だった。
 1点ビハインドの5回二死一塁から今季初登板し、左打者のマーティンを抑えると、その後、味方打線が逆転し、3分の1回ながら勝利が転がり込んだ。

 あいつも、もう40歳になったんだね。俺が巨人のコーチ時代、中継ぎ、抑えで黙々と投げ続けていたが、途中からは故障でずいぶん苦しんだ。
 その後の話は長くなってしまうから書かないが、まさに苦労人。戦力外や移籍、育成契約も経験しつつ、それでもひたむき投げ続けている。
 俺は、彼に「1勝ご苦労さま」とメールした。「おめでとう」じゃないよ。彼は昔、「僕はリリーフなんで、勝ちは別にうれしくありません」という話をしたことがあったんでね。

 久保は、いわゆる「松坂世代」だ。だいぶ人数が減り、ご本尊? の松坂大輔も危くなっているが、それでもソフトバンク和田毅阪神藤川球児は、まだまだ第一線で投げている。久保は、彼らのことが気になるし、活躍がパワーになります、とも言っていた。
 彼に今シーズンは何試合投げるのを目標にしているのかと聞いた。なにせ「勝利はうれしくない」男だから基準があるとしたら登板数かな、と思って。
「具体的なものはありません。必要とされている以上、頑張りたいです」
 これが答え。あいつらしい。

 今回のコロナ禍についても聞いた。外出自粛とか大変じゃないか、と。
「自分もかかる恐怖感はありますが、もともと外で遊びたいとかそういうものがまったくないんで、ずっと部屋に閉じこもっていても苦しくありません。大丈夫です」
 と言っていた(すべてラインなので書いていたかな)。

 彼は、こうも書いていた。
「40歳になっても野球人として日々成長すること、最後まであきらめない姿を見せたいと思っています。医療関係者の方もそうですし、今回のコロナで大変な思いをされている方がたくさんいる中で、野球ができるだけ本当に幸せだと思います」

 感染自体は、ここまで広がると、もう運の問題だ。
 ただ、もし感染したとき、「ああ、あのとき外に飲みにいかなきゃよかった」と思っても遅い。プロ野球選手は自分の感染が試合中止や下手したらシーズン打ち切りになることだってある。「同じじゃねえか」と言われそうだけど、やるだけやっての感染と油断しても感染は違う気がする。
 実は俺も先日、突然発熱し、コロナを覚悟し、PCR検査を受けた。幸い陰性だったが、検査結果ができるまでの時間は最悪だった。
 一番は、自分の体の心配じゃなく、家族が大変になるな、だった。
 あのときああしていれば、と後悔が次々。でも、なってからでは、もう遅いんだよね。

 夜の街は楽しいよ、それは俺も知ってる。でも、今、どうしても行かなきゃいけないわけじゃないでしょ。我慢できないと思ったら、久保の「野球ができるだけで本当に幸せ」という言葉を思い出してほしい。戦力外や育成契約がありながら40歳まで投げ続けている男だからこその説得力がある。
 ぎらぎらとはしてないが、これがプロの本当のプライドだと思った。

写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング