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FOR REAL - in progress -

バトンの重みに違いはない――三嶋一輝が語るクローザーへの思い/FOR REAL - in progress -

 

優勝を目指して戦う横浜DeNAベイスターズ。その裏側では何が起こっているのか。“in progress”=“現在進行形”の名の通り、チームの真実の姿をリアルタイムで描く、もう一つの「FOR REAL」。


 球を投じた直後、三嶋一輝は跳ぶ。

 力強い蹴りにマウンドの土は弾け、全身のエネルギーを伝えられた白球は猛然と空気を裂く。

 クローザーの任を託されてからというもの、右腕は輝きを増した――。

 だが本人は、ちょっとばかり不満げだ。

「いや、そうじゃないってぼくは思いますけどね。9回を投げる役割に入ったからって、パフォーマンスが上がるわけじゃない」

 礼賛の声に浮かれる気配は微塵もなかった。


中継ぎでは味わえない感覚。


 7月26日のカープ戦で、ベイスターズは逆転負けを喫した。6点差の快勝ムードが一転、8回を終えたときには1点リードに変わっていた。9回、入団以来クローザーを務め続けてきた山崎康晃が登板。同点とされたのち、満塁ホームランを打たれた。

 戦いの場は東京ドームに移る。そこで、三嶋は投手コーチの木塚敦志からこう告げられた。

「9回はお前でいくから」

 山崎が苦境に立たされているとはいえ、誰かが代わってクローザーを務める、ましてそれが自分だなどとは考えていなかった。三嶋は言う。

「(予感は)まったくなかったです。中継ぎで一昨年、去年と投げてきて思うのは、抑えるときもあればやられるときもあって、その繰り返しの1年間だということ。ヤスがやられたからって『じゃあ、おれが9回かな』だなんて、そういう気持ちは一切なかった」

 木塚の言葉だけを受け取った段階ではまだ半信半疑だった。29日のジャイアンツ戦、1点リードで終盤に入り、9回のマウンドに向けての用意を命じられたとき、ついに現実として認識できた。

 5回までに3点を奪っていたベイスターズは、6回裏に2点を返された。点差を広げたい7、8、9回の攻撃はすべて三者凡退に終わった。9回裏、ジャイアンツの追い上げムードは最高潮に達していた。

 そこに新クローザー、三嶋は現れた。

 投じたストレートはどれも150kmを超えた。三振、レフトフライでアウトを重ね、塁に出せば厄介な重信慎之介を打席に迎えた。変化球で追い込んだのち153kmの直球をど真ん中に投げ込む。バットが空を斬ったのを見るやいなや、三嶋は思わずガッツポーズを繰り出した。

 中継ぎなら、個人の役目を終える瞬間とゲームセットは一致しない。だがクローザーなら、そのふたつは一致する。緊張の糸を切った途端、グラウンドの上で仲間たちの笑顔に囲まれる。「中継ぎでは味わえない感覚」。それはたしかに、これまでとの違いであり、変化だ。

 でも――その点を除けば何も変わっていない、と三嶋は言う。

9回は特別な場所ではない。


 ここまでクローザーとして6試合に登板し、5セーブを挙げた。威力あるストレートを中心に投球内容は安定しており、失点はソロ本塁打による1点のみ。背番号17は、前触れなく与えられた務めを着実に果たしてきた。

 その働きに対して周囲が並べる称賛の言葉は三嶋の耳にも届いている。ただ、それは同時に、心にかすかな違和感を生じさせる。

「よく言われますよ。9回を投げている球のほうがいいとか、気合いが入ってるとか、顔が違うとか」

 三嶋は続ける。

「そう言ってもらえるのはありがたいけど、『中継ぎのときも、負けている場面で投げているときも、おれはがんばってるから』って思うんですよね。クローザーということでスポットライトを浴びるし、そこが大事なポジションだということもわかってます。でも、どういう場面であっても、その投手にとってはそこで投げていること自体がすごく大事なことであって。いま9回を投げているからおれはノッてるんだ、すごいんだっていうふうにはまったく思わないし、思いたくもない。それは、いまのぼくに、いちばんあってはならないこと。どんなポジションであっても、バッターと勝負をするということをいちばんに考えています」


 好投の要因として「投げるイニングが固定されたことで準備がしやすくなったからではないか」という点がしばしば挙げられる。これについても、三嶋は首をひねる。

「やりやすい……どうなんだろうなあ。まあ、周りの方がそう思ってくれるのであれば、それでいいかなって。ただ、ぼくとしては、それに甘んじたくないというか。『今日はリードされているから登板はないな』って、そんなふうにスイッチを切ることはしたくない。何年もクローザーをやっているわけではないですし、やっぱりぼく自身、負けている試合でもずっと投げてきた選手ですから。リリーフピッチャーとしての気持ちは忘れちゃいけないなと思っています」

 三嶋は自分に与えられた場にひたすら全力を注いでいる。その役割の呼び名や注目のされ方は変われど、受け取るバトンの重みに違いはなく、彼自身も何ら変わっていないと話す。

 今年、30歳になった。順風満帆とは言えないプロのキャリアも8年目に入った。今シーズンだって、開幕2戦目に失点を重ね、防御率21.60からのスタートだった。

 起伏に富んだ経験が、三嶋の心を常に正しい方向に向かせている。過信や慢心とは無縁。いつだって、兜の緒を締め直す。

「たとえば、若くて、あまり失敗をしてこなかった人間だったら『おれはクローザーだから』って感情がもしかしたら出てくるのかもしれませんね。ぼくはセーブを挙げたからって、そういうものはまったく出なくて、むしろ『次もがんばらなきゃ』『次もやるぞ』って、もうその気持ちしかないです。周りの反応を見て、セーブを挙げるって、クローザーをやるってすごいことなんだなって思いましたよ。でもぼくからしたら、9回を投げたときだけそんなにスポットライトを当てなくてもいいのにって(笑)」

三嶋は“つなぎ”のクローザーなのか。


 ひとつ挙げるなら、ピッチングに対する考え方に変化は起きた。今シーズン、追い求めてきた投球スタイルの進化がクローザーになったことで際立った。そう言ったほうが正確かもしれない。

「オープン戦のときから、去年まではあまり投げていないボールを投げてみたりしています。そこにはいろいろな意図があって。いままでは、どちらかといえば“押せ押せ”のスタイル。もちろんいまもその姿勢を失ってはいないですけど、その中で、いかにバッターにいいスイングをさせないか。体勢を崩す、目線を変える。そういうところを、ほかのピッチャーを見たりして毎日勉強しながら投げるようになりました。目の前のバッターを抑えてやるという気合いも入れつつ、冷静な考えも持ちながら勝負しています」

 強気一本槍ではなく、リスクも回避しながらの落ち着いた投球。つかまれば負けに直結するクローザーだからこそ、その傾向は促された。

 三嶋は、経験に裏打ちされた実力で、いまの立場をつかみ取ったとも言える。


 一方で、2015年からずっと、ベイスターズの9回は山崎の仕事場だった。

 ならば三嶋は、山崎が復調するまでの“つなぎ”のクローザーなのか。それとも、つかんだからには離すまいと考えているのか。

 ふたつの選択肢を前に、三嶋は首を振った。

「正直、どっちでもないですね。あいつが戻ってくるまで、その代わりとしてがんばろうとか、このままこのポジションを奪ってやるとかじゃなくて、いま勝つためにぼくは9回を投げてるんです。ヤスがどうとかじゃなくて、勝つために必要だから9回を投げてるとしか思ってない。だって、そういう感情は要らないですよね……と、ぼくは思います」

 そして、こう付け加えた。

「ヤスは、ぼくがセーブを挙げたら『ナイスセーブです!』って言ってくれますよ。すごく応援してくれる。ヤスはヤスで、いろんな感情があると思うし、本人がいちばんつらいと思う。でも、ヤスは日本のクローザーですから。いま、ぼくが9回を投げてるからって何も言うことはないですし、ヤスはヤスでがんばってる、だったらおれも負けないようにがんばろう。もっとがんばって、チームを勝たせられるピッチングをしよう。その気持ちしかないです。今シーズンまだまだ長いですけど、一喜一憂せず、ひとつの戦力として、どんな場面でも全力で投げたいと思います」


 チームは、真夏の9連戦の最初の6戦を5勝1敗で終えた。

 首位ジャイアンツにじわりと迫って、2.5ゲーム差。背中は近い。

「勝ちたい気持ちの強いチームが勝つ、接戦をものにできる」と三嶋は言った。

 すべての選手が、それぞれの持ち場で全力を尽くす。

 それが、目指す頂への最短ルートだ。

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写真=横浜DeNAベイスターズ

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