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2020甲子園交流試合

身を粉にして働いた精神的支柱。星稜・林監督の長男が信頼された理由/2020甲子園交流試合リポートVol.11

 

新型コロナウイルス感染拡大のため中止となった今年3月のセンバツ出場32校の「救済措置」として甲子園で開催される「2020年甲子園高校野球交流試合」。今夏は地方大会と全国(甲子園)も中止となった。特別な思いを胸に秘めて、あこがれの舞台に立つ球児や関係者たちの姿を追う。

新チームから副将に


星稜高の三塁コーチを務めた林大陸は、同校を指揮する林和成監督の長男。履正社高との交流試合では代打出場し(二ゴロ)、その後は二塁守備にも入った


 2時間10分の試合中、星稜高ベンチに腰掛けることはなかった。守備中はバッテリーを鼓舞し、ベンチ中央で守備位置など、的確な声。攻撃中は三塁コーチとして、身振り手振りのゼスチャーで打者、走者に指示を送る。味方の守備が終われば、すぐにコーチスボックスへダッシュで向かい、ベンチに戻る野手に声をかける。自チームの攻撃が終われば、守備に就く選手一人ひとりの背中を押す。自らの足を止めることはまず、ない。チームの勝利のために、常に身を粉にして動いていた。

 履正社高との甲子園交流試合(8月15日)。星稜高で最も目立っていたのは、背番号10を着ける林大陸(3年)。林和成監督の長男だ。

 背番号10はエースに次ぐ2番手投手が背負うのが一般的だ。次に多いのは、精神的支柱。3年生・林はこのケースに当てはまる。星稜高の主将は1年夏から遊撃のレギュラーで、昨夏まで3季連続で甲子園の土を踏んだ内山壮真(3年)。昨秋の新チームから内山が主将となり、副主将には林と花牟禮優(3年)が就任した。

 主将も2つに分類されると言われる。気迫を前面にけん引、もしくは黙々とプレーで引っ張るタイプ。内山は後者である。そこでチーム運営において、欠かせない存在となったのが林だった。

「内山には持っていないものがある。メンバーとメンバー外の橋渡し役もできる」。林監督は奥川恭伸(現ヤクルト)−山瀬慎之助(現ヤクルト)が引退した昨秋以降、息子である林に全幅の信頼を寄せてきた。

「林監督を全国優勝の監督にしたい」と、星稜中から同校野球部の門をたたいた林。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、夏の全国大会(甲子園)と地方大会が中止。「そこにかける思いが強かっただけにショックだった」。しかし、約2カ月の活動自粛期間中、父から「1分、1秒をムダにするな」と言われ、前を向いてできる限りの努力を続けた。

「今までありがとう、と言いたい」


 履正社高との甲子園交流試合が最後の公式戦となった。試合終盤に出場機会がやってきた。7回、代打で登場すると積極的に初球をスイングして二ゴロ。その後は二塁の守備に入って、甲子園の土をしっかりと踏み締めた。

 昨夏の甲子園決勝の再戦となったこの一戦、星稜高は1対10で敗れた。父と同じ舞台に立った感想をこう述べている。

「あまり仲間の前では父のことを口にすることはありませんでしたが、心の内にはありました。陰で支えてもらい、小さいころからあこがれの舞台に立てた。今までありがとう、と言いたいです」

 林はハキハキとした口調で答えた。開催されるはずだった3月のセンバツアンケートの「将来の夢」の欄に「みんなのためになる仕事」と記入している。

 そして「尊敬する人物」は「父」。甲子園で高校野球が終えることが最も幸せ、と言われる。林は球場から取材スペースに引き揚げてくるのが最後だった。最も重いアイスボックスを補助員と一緒に運んでいた。副主将としての役割をまっとうした。そういった細かい部分にも気を配れるから、信頼を受けるのである。

文=岡本朋祐 写真=毛受亮介
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