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田中将大が楽天時代に語った“エースの条件”に合致する藤浪晋太郎の姿

 

阪神にとって「特別な選手」



 トンネルをくぐり抜け、待望のヒーローが戻ってきた。阪神の藤浪晋太郎が2018年9月29日以来、実に692日ぶりの白星をマーク。150キロ超の速球を中心としたアグレッシブな投球は、絶対的なエースの座をつかもうとしていたかつての姿をほうふつとさせた。

 今季5度目の登板となった8月21日のヤクルト戦(神宮)。7回途中まで4失点(自責点2)と粘り、7対4の快勝を演出した。「やっと勝てた。苦しくつらいことが多かった。コツコツやるしかないと思って、毎日練習してきた」。ベンチのチームメートばかりではなく、敵地のファンからも湧き起こった温かい拍手に包まれながら、藤浪は感慨深げだった。

 チームは前日まで3試合連続で得点なし。2回、無死満塁から木浪聖也が見逃し三振に倒れてチャンスがしぼんだかと思われたが、続く打者・藤浪が執念を見せた。三塁へのボテボテの打球を放ったが、あきらめることなく一塁へ。内野安打となり、38イニングぶりの得点をもぎ取った。試合後に藤浪について聞かれた矢野燿大監督は、「ああいう当たりで一生懸命走るとか、そういうところをみんなが見ている。もしかしたら、神様も味方をしてくれたんじゃないか」と投打の功をたたえた。

 失意の時は過ぎ、剛速球を堂々と操るスタイルがよみがえりつつある。制球難から勝てない日々が続いたが、次第に歯車がかみ合ってきた。昨秋、元中日山本昌のアドバイスで、右手首を立てて投げて右打者への抜けるボールを減らすフォーム改造に腐心。ブルペンではチームのだれよりも投げ込みながら自信を深め、復活の時をうかがっていた。

 藤浪の完全復活を楽しみにしている球界人は少なくない。巨人原辰徳監督もその一人だ。8月5日の甲子園での阪神対巨人戦。久しぶりの白星こそお預けとなったが、藤浪の鬼気迫る熱投に敵将が反応した。「安定感が出てきた。手強いピッチャーが戻ってきたね」。類い希なるポテンシャルを持ちながらつまずき、もがき苦しんだ経緯を知っている。このまま埋もれるにはあまりにももったいない逸材と認めているからこその、球界最年長監督からのエールだった。

 阪神球団にとって「藤浪は特別な選手」だろう。高校時代には大阪桐蔭のエースとして春の選抜大会で5試合、夏の選手権大会で4試合に登板し、春夏連覇を達成するなど甲子園通算9勝を挙げた。13年にドラフト1位で入団すると、高卒ルーキーとして同期の大谷翔平(当時日本ハム、現エンゼルス)を上回る10勝をマーク。15年まで3年連続2ケタ勝利をクリアするなど、野球の聖地・甲子園を本拠地とする阪神の星となった。

「あいつに何とか勝ってもらいたい」


8月21日のヤクルト戦で692日ぶりの勝利。果たして、このまま復活ロードを歩めるか


 低迷が続き、一部にはトレードの可能性を書き立てるメディアもあった。しかし、甲子園のヒーローとして藤浪は阪神に入団。いきなり期待どおりの働きをして、夢と希望を与えた。球団にとって感謝は大きく、そう簡単に見切れるわけではない。「まだ終わっていない」。将来の大エースに寄せる期待は今も揺るがない。

 以前、ヤンキースの田中将大が“エースの条件”について語ったことがある。「結果も必要だけど、球団やチームメートとの間の信頼関係が一番大事。結果が出ないときもあるけど、『あいつに何とか勝ってもらいたい』とチーム全体が一丸になれるかどうか。そういう雰囲気を出せる投手が、エースと呼ばれる資格を持っているんじゃないかと思う」。ひと昔前に甲子園を沸かせ、日米でエースに登り詰めたヒーローは力説する。

 開幕前の新型コロナウイルスの感染や、遅刻による二軍降格騒動もあったが、藤浪の丁寧かつ律儀で、裏表のない素直な性格に好意を寄せる関係者や担当記者も多い。並外れた能力を信じ、「復活してほしい」というのが、身近な人間の共通した願いだ。信頼の残り火を燃え上がらせ、第二章では一念発起し、真のエースへ再び挑戦――。藤浪のドラマの行方は、ファンならずとも注目している。

写真=BBM
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