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プロ野球20世紀・不屈の物語

21世紀に中日の山本昌が更新した20世紀の“最年長”左腕/プロ野球20世紀・不屈の物語【1950年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

山本昌との共通点


2014年9月5日の阪神戦(ナゴヤドーム)でプロ31年目の中日山本昌が通算219勝目を49歳25日で手にしたが、最年長勝利、最年長出場、最年長登板、最年長先発、最年長奪三振など数々のプロ野球記録を64年ぶりに更新した記念すべき1勝となった


 21世紀、2015年にプロ野球で初めて50代での登板を果たした中日の山本昌。もちろん、これがプロ野球の最年長記録になるが、それまでの記録を更新したのは、このときではない。その前年、9月5日の阪神戦(ナゴヤドーム)だ。49歳と25日で先発すると、そのまま勝利投手にもなって、最年長登板、最年長先発登板、最年長先発、そして最年長勝利で、プロ野球の頂点に立った。この連載は若いファンにとっては生まれる前のプロ野球を扱うことが多いだろうが、このときのことは鮮明に覚えている若者は少なくないはずだ。

 このときの報道で、名前だけは目にしたということもあったのではないだろうか。翌15年に差は広がったものの、出場、登板、先発登板で、この時点では従来のものとの差は2カ月ほど。それまでの最年長は48歳10カ月で、勝利投手だけは48歳4カ月。このどちらも、阪急(現在のオリックス)の浜崎真二が2リーグ分立の1950年に残した数字だ。

 もはや歴史上の人物といっていい浜崎だが、あまり語り継がれることのない人物でもある。浜崎は山本昌と同じ左腕。実働29年、現在はソフトバンク監督の工藤公康も左腕だったが、3人の左腕が長寿だったことは単なる偶然なのか、なんらかの必然があったのか、それは今後、同じように長寿の左腕が登場するなど、これからのプロ野球が証明してくれることだろう。ただ、この3人のうち、20世紀のうちは最年長だった浜崎だけが投手タイトルとは無縁。だからといって、単に年齢を重ねただけの男ではない。

 そもそも、プロ入りしたのが遅い。総監督との兼任で阪急へ入団したのが戦後の47年シーズン途中で、すでに45歳。これは現在も残る最年長でのプロ入りだ。今後、山本昌の最年長記録を更新する選手は現れても、浜崎の年齢でプロ入りする選手は出てこないだろう。身長156センチ、実際は151センチだったともいう。プロの経験こそなかったものの、野球界では名の知れた男だった。

 広島商で17年の全国中等学校大会、現在の甲子園に出場したが、海に行って学校をサボったと濡れ衣を着せられたことで無期限停学処分となり、腹が立って退学、海軍工廠で働きながら野球を続けて、再入学した神戸商で再び全国大会へ進み、準優勝を果たした。23年に慶大へ。27年の秋には緻密に制球された快速球を駆使して1完封を含む2勝を挙げて、その後の黄金時代を呼び込んだ。ただ、卒業試験はカンニングで、卒論も他人に書かせたという。

奇跡の41歳


1947年シーズン途中、45歳で阪急に入団したときの浜崎真二


 29年、当時は日本の統治下にあった中国東北部、満州鉄道へ入社。1年目から都市対抗の優勝に貢献した。翌30年に兵役へ。ただ、まだ戦火は厳しくなっておらず、性格的にも強制される訓練に身が入らず、やむなく現地の小学校、中学校に派遣させられて、野球を指導した。34年には巨人の前身、大日本東京野球倶楽部に誘われたが、33歳の浜崎は「プロができるのには、まだ10年ほどかかる。俺の歳では間に合わない」と拒否。だが、これはメガネ違いで、36年にはプロ野球がスタートしており、このとき断っていなければ、プロ野球の歴史も変わっていたかもしれない。

 41年の明治神宮大会では2連続完封。「(数え年で)41歳の奇跡。野球界にとって大きな1日」と報じられた。戦後も現地にとどまり、難民、つまり日本人を救済するために野球の興業を行っている。47年に帰国して、阪急へ。横行していた賭け屋と戦いながら指揮を執り、投手としても47年、48年、50年に登板。20世紀の最年長新記録となったのは消化試合の余興で、毎日(現在のロッテ)の総監督を兼ねていた48歳1カ月の湯浅禎夫と投げ合ったものだ。

 そのオフに選手を引退。ピッチングは投球術で打者を翻弄するスタイルになっていたが、2リーグ分立の際に選手の引き抜きにあって激怒、53年に黒人の助っ人を獲得して旋風を巻き起こしながらフロントと衝突して退団、参入したばかりの高橋の監督に転じ、63年には優勝と無縁の国鉄(現在のヤクルト)で指揮を執るなど、気概だけは衰えなかった。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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