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プロ野球20世紀・不屈の物語

世紀末に再始動したホークス黄金時代の前史。強さの底流にある仲間の死/プロ野球20世紀・不屈の物語【1943年〜】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

ホークス初の黄金時代に


1999年、ダイエーとして初優勝を果たして胴上げされる王監督。右には同年死去した根本氏の写真が


 21世紀に九州は福岡で長い黄金時代を謳歌しているホークス。20世紀にも長い時間を過ごしているファンにとっては、チームがダイエーとなって移転したことは昨日のことのように思い出される衝撃だったが、この2020年に30歳を迎える人にとっては、生まれる前の、歴史上の出来事になる。思えば長い時間が経ったものだ。現在はソフトバンクとなっているチームの強さには、豊富な資金力を背景にした巨大な戦力であることも間違いなくあるだろう。ただ、20世紀を知る者にとっては、それは外皮のように見えやすいものに過ぎず、戦前からの長い歴史を持つホークスというチームの奥底に流れているものではないように見えるのだ。

 この連載でも紹介していて、一部は重複になるが、あえて繰り返す。九州での初優勝、日本一を飾った1999年も、チームを団結させたのは悲劇だった。監督として九州ホークスの土台を築き、自ら後任に王貞治監督を招聘して球団社長に転じていた根本陸夫が4月に死去。翌2000年のリーグ連覇も、99年の優勝に大きく貢献しながらも末期の肺ガンと戦っていた藤井将雄に届けたものにも見えた。 

 まだホークスというニックネームを冠する前、背番号19、日本が悪夢の戦争へと突き進んでいった41年から42年の2年間で113試合に投げまくって49勝を挙げた神田武夫についても、すでに紹介している。ベンチでは常にマスクを着けていたが、自分の身を守るためではなく、周囲に自身の病を感染させることを恐れてのことという点は、いまの我々と同様だ。だが、神田の病は結核で、42年オフから療養に専念したが、翌43年に死去。三谷八郎監督は「私が神田を殺してしまったようなもの」と自責の念に苦しんだ。ただ、この当時は、すべてのチームで次々に選手が応召し、戦火に散っていった時代。43年から2年連続で最下位に沈んだチームが浮上するのは戦後になってからだった。

 46年にグレートリングとして再出発すると、復員した鶴岡(山本)一人が監督と四番打者を兼ねて打点王、MVPに輝いて初優勝、翌47年に南海ホークスとなったチームは続く48年に2度目の優勝。2リーグが分立した50年にはパ・リーグに参加して、チーム初の黄金時代を迎える。翌51年から3連覇、50年代だけで5度のリーグ優勝。59年には宿敵の巨人を破って初の日本一にも輝いた。栄光は60年代に入っても続く。61年にリーグ優勝、64年には阪神との日本シリーズを制して5年ぶり日本一に。だが、そんなホークスを、ふたたび悲劇が襲った。

南海、最後のリーグ3連覇へ


理論家でも有名だった蔭山和夫。鶴岡監督の後任として南海監督に就任したが……


 65年にリーグ連覇も、V9元年となった巨人に日本シリーズで完敗し、その責任を取って鶴岡監督が辞任。紆余曲折を経て、その後任に決まったのは、やはりヘッドコーチを辞任したばかりの蔭山和夫だった。蔭山は選手としても鶴岡の築いた黄金時代を支えた、いわば愛弟子。長く監督として率いてきた鶴岡の後任としては、ほかに適任者はいなかったのも確かだ。

 だが、就任4日後。蔭山は急死する。まだ38歳、急性副腎皮質機能不全のためだというが、という重圧もあったのだろうか、不眠に苦しみ、精神安定剤を服用した後にブランデーを飲んでいて昏睡状態に陥ったとも伝わる。これを受けて、サンケイ(現在のヤクルト)か東京(現在のロッテ)のどちらかの監督に就任することが決まりかけていた鶴岡は、蔭山の訃報に接して「もう野球はできない」と思ったという。

 その自責の念は、他者の想像が及ぶものではないだろう。それでも、選手たちの説得もあって監督に復帰。“親分”と恐れられた男は会見で号泣した。ただ、この時点で「あと3年」と決めていたといわれる。迎えた66年、やはり日本一こそならなかったが、南海は最後のリーグ3連覇を達成した。

 一緒に戦っていた仲間の死は、残された者に、深い悲しみに沈む権利と、どんなに時間がかかっても、その悲しみから立ち上がっていく重い義務を与えるものなのかもしれない。まだ本拠地が大阪にあり、南海だったホークスも、そんな宿命を背負ったチームだった。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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