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【MLB】試合中、前打席のビデオを見るのは、許されるべきか否か

 

昨季まで前打席のビデオをチェックしながら打席に入っていたレッドソックスのJ・D・マルチネス。コロナ禍の影響もありビデオルームへの出入りが禁止となり打率を落としている。果たしてこの行為は今後どう議論されてくのか……



 レッドソックスの指名打者J・D・マルチネスはフライボール革命で名を成した選手だ。メジャー・デビュー直後は、打率.250前後、本塁打も1ケタだったのが、ビデオとデータを利用し、スイングの軌道を変え、2016年以降は4年連続3割を打ち、17年、18年は40本塁打以上と大打者の仲間入りを果たした。

 それが今季は打率.205、4本塁打と急に打てなくなった(現地時間9月13日現在、以下同)。本人は試合中にビデオで前の打席のスイングをチェックできなくなったのが理由と説明している。今年はじめ、アストロズとレッドソックスのリプレー映像を利用したサイン盗みが明らかになり、重い処分が課せられたが、プラス新型コロナウイルスの感染拡大防止に、MLB機構と選手会は、試合中のビデオルームへの立入禁止をプロトコルに含めることで合意した。

 狭いビデオルームに次々に選手が出入りすればクラスターになるという懸念からだ。安全と健康を考えると正しい判断である。この影響が少なからず打者の成績に出ている。マルチネスは「私のルーティンの中で大きなパートを占めている。前打席のスイングを見て、何が正しくて何が正しくなかったか、見極めるのが大切。今はそれができなくなった」と指摘する。

 ゴロやポップフライを打ったあと、原因を正確に突き止め、正しくアジャストしたいが、現在は打席で得た感覚しか残っていない。彼はDHのため、これまでは打席と打席の間にたっぷり時間があった。チームメートのスイング分析までしていたそうだ。

 14年にMLBがリプレーのシステムを導入して以来、より高感度のカメラで鮮明な映像をいろいろな角度から撮るようになった。センターから、頭上から、ホームプレートのすぐ後ろから。そういった映像が、打撃のアジャストにも使われるようになるのに、時間はかからなかった。過去の試合の映像を見るのは昔から普通に行われていたが、今は1打席目、2打席目の鮮明映像を試合中にコーチと一緒に見て、アジャストを話し合ったりできるようになった。

 おかげで、以前より格段に打席ごとのアジャストが的確になった。それが急に使えなくなった。カブスのハビア・バエズも今季.203の低打率で、ビデオを理由に挙げる。「別にズルいことをしているわけではない。スイングを見て、ボールがどこを通っているか、バットのどこに当たっているかを見る。それができなくなり、多くの打者が悪戦苦闘している。これはわれわれがやってきている野球とは違う」と主張する。

 iPadは今季もダグアウトで使ってもいい。しかしながらそこで見ていい映像は以前の試合に限られる。試合中にデータをアップデートはできない。さて問題は、将来的に、新型コロナのプロトコルが必要なくなったときに、ビデオルームへの立ち入りを再び許すかどうかである。

 打者は、元どおりを求めるだろうが、投手はどうか? 投手も試合中にビデオを見ることで、多少アジャストができるかもしれない。しかし打者に比べて得られるものは限られていると思う。となるとアンフェアではないのだろうか? 今後、このあたりの議論がどう進んでいくのかはとても興味深い。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images

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