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育成強化に向けて“食”の面でも進化する西武。二軍ではキッチンカーも稼働

 

本稼働までにさまざまなハードル


キッチンカーを背に笑顔の葛西氏(球団提供)


 とある日の午前9時。1台のキッチンカーがロッテ浦和球場に到着した。定位置に駐車させると、すぐさま発電機を発動させて“何か”の準備が始まった。冷蔵庫から食材を取り出し、スタッフはすぐさま調理を始めた。

 西武は、2019年7月に主に若手選手が生活する「若獅子寮」と、12球団最大級の広さを誇る「ライオンズ トレーニングセンター(室内練習場)」を完成させ、2020年7月には、ファームの本拠地「CAR3219フィールド」(旧:西武第二球場)のリニューアルが完了し、試合中でも同時に練習ができるサブグラウンドや、屋根付きのブルペンを設けた。そして、この「キッチンカー」も今年から取り入れたもの。ファームの遠征地(浦和、戸田、ジャイアンツ球場)で試合を行うときに稼働する。このキッチンカーは、試合前、選手やチームスタッフへ季節に応じて冷たい麺類、温かい麺類や日替わりでカレー、牛丼などの丼ぶり、豚肉の生姜焼き、グリルチキンなどの主菜、フルーツ、サラダ、おにぎりなどさまざまなメニューを提供することができる「西武オリジナル」仕様だ。

 西武は昨年5月、帝京大学と業務委託契約を締結し、管理栄養士が一軍、ファームそれぞれ1名ずつ状況に応じて帯同している。ファームを担当している葛西真弓氏(帝京大学スポーツ医科学センター助教)は、「これまでファームでは、遠征先での昼食はお弁当がメーンでした。お弁当だと決まったものを食べるしか選択肢がなく、自分のコンディションに合わせて食事を選択する余地がありませんでした。特に食欲が落ちてしまう夏場にはなかなか食が進まず、なかには“食べない”という選択に陥ってしまう選手もいました」と昨年を振り返る。「夏は、35度以上にもなる環境下で、一軍に上がるためのパフォーマンスを発揮しないといけない。そのためには、しっかりと食事をとってエネルギーを補給し、試合に向けて準備をする必要があったんです」と続けた。

 このような事情から、2020年が明けてすぐに、ファームの育成に携わるスタッフが一堂に会して「食について」をテーマに話し合いが行われた。そこで「キッチンカー」の発想が出てきたという。その会議に参加した球団スタッフの一人は、「一軍のメットライフドームの試合開催日には西武球場前駅の改札を出ると、丼ぶりやカレーライス、たこ焼きなど美味しそうなキッチンカーがたくさん並んでいる(現在は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、パシフィック・リーグ公式戦メットライフドーム開催試合でのキッチンカーの稼働は見合わせている)。その光景を思い出した瞬間、『これだ!』と思った」という。

選手やチームスタッフに提供される料理(球団提供)


 早速、キッチンカーの導入に向けて準備が始まったが、本稼働までにはさまざまなハードルを越えなければならなかった。そもそも遠征地にはキッチンカーを置く場所があるのか、提供方法はどのようにするのか、衛生面は問題ないのか、道中で万が一キッチンカーが動かなくなってしまったときはどうするのか……。課題は山積みだった。

 そこで、ライオンズの食事提供を担うフジ産業株式会社がスタッフ総出で何度も何度も議論を重ねて対応策を検討した。またシーズン開始前には葛西氏とフジ産業株式会社のインストラクター・糸井信寿氏とキッチンカーのノウハウを持つ調理担当の高野英之氏の3名で、各球場(ロッテ浦和、ヤクルト戸田、ジャイアンツ球場)をまわって、現地でシミュレーションを繰り返し行った。

「あのときは本当に大変でしたね。現地でのシミュレーションに加えて、カットフルーツやおにぎりなど、クーラーボックスに保冷剤を入れて本当に冷えるのか、時間が経っても衛生的に大丈夫なのかなど、安全面を調べるために若獅子寮の前で実験も繰り返ししましたね。ビジターゲームは食事時間がとても短いので、素早く提供できるかのシミュレーションも何度もしましたね」と葛西氏は一から立ち上げる事業へかけた時間を懐かしむように当時のことを明かした。

変わってきた食に対する意識


選手とコミュニケーションをとりながら食事のアドバイスをする葛西氏(球団提供)


 今年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、開幕は約3カ月遅れたものの、無事にイースタン・リーグも開幕し、本稼働し始めたキッチンカー。葛西氏がメニューボードに記入した「本日のオススメメニュー」を横目に、若獅子たちは「今日はどれにしようかな?」。それぞれが選んだ食事がトレーの上を彩っていく。

 ルーキーながら、すでにファームで49試合出場(10月5日時点)している川野涼多は、「葛西さん! どうっすか?」と、自身が選んだメニューについてアドバイスを求めることも。「夏は暑くてなかなか食が進まないときもありますが、自分のためを思って葛西さんが背中を押してくれています」。続けて、「若獅子寮で調理をしてくれているコックさんが作ってくれた食事を、遠征先でも食べられるので、いつもと同じ味という安心感もあります。すでに僕の中では“第二のおふくろの味”みたいになっています! って大袈裟ですかね!?」と冗談交じりの笑顔で話した。

「食事について個々に相談に来る選手もいます。そこでこれまでは生まれなかった会話が生まれている。選手の食事に対する意識が徐々に変わってきた証拠ですね」と、うれしそうに話す葛西氏。しかし、まだ納得はしていない。

「ここ(ファーム)での食事は、上(一軍)でしっかり活躍するための身体づくりの一環だと思っています。強い身体を作って上(一軍)に送り出してあげたいですし、食に対して自分で考えて動けるよう、意識を高めていってもらいたいですね」

 葛西氏は若獅子の今後の飛躍を信じて今日も奮闘する。

西武ライオンズ
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