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プロ野球20世紀・不屈の物語

華麗なるセカンドキャリア三者三様。「殺される前に5、6人は殺した」男も?/プロ野球20世紀・不屈の物語【1956〜58年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

馬場は5年、尾崎は3年



 プロ野球選手が現役でいられる時間は短い。ほとんどの選手がセカンドキャリアの時間のほうが長くなる運命を背負っている。スポーツキャスターに転身したことでプロ野球に関わり続けた佐々木信也については紹介しているが、プロ野球から離れて、別のスポーツで成功を収めた選手の筆頭格は、巨人の馬場正平と西鉄(現在の西武)の尾崎正司になるだろう。

 ともに投手で、馬場は巨人で5年間プレーしたが勝ち星なく、大洋(現在のDeNA)へ移籍したがケガで引退、プロレスの世界に身を投じて、ジャイアント馬場として伝説的な存在になった。センバツ優勝投手でもある尾崎は西鉄で3年間プレーしたが、やはり勝ち星なし。同期の池永正明が投げる球を見て「野球では勝てない。違う世界で勝負しよう」とプロゴルファーに転じて、ジャンボ尾崎として息の長い活躍を続けている。ただ、野球でもスポーツでもない道で第2の人生に挑む選手のほうが圧倒的に多い。

 最近は芸達者な元プロ野球選手も少なくなく、タレントとして現役時代より活躍しているケースも散見されるが、同じ芸能の道でも、俳優として成功したのは希少。そんな元プロ野球選手で、ほぼ唯一の存在と言えるのが、東映(現在の日本ハム)の八名信夫だろう。選手としても俳優としても名前は同じ。20世紀の終盤からブラウン管を彩った青汁のCMもインパクト抜群で、ぼちぼち中年の声が聞こえはじめる若い人には青汁のイメージが強いかもしれないが、「何度も殺されたよ。でも殺した数のほうが多い。殺される前に5、6人は殺してるからね」と語る悪役俳優のレジェンド。昭和の昔はアクションドラマで活躍し、特に破格の規模を誇った『西部警察』では10話に1度くらい登場して(すべて違う役)、すでにロマンスグレーになっていたが、マシンガンや火炎放射器を片手に、やや猫背ながら抜群の運動神経を発揮していた印象がある(あくまでも印象)。

 八名は東映で3年間プレーしたが、「昔は、どの球団も、やめた後は親会社に就職させることがあった。俺らは東映だから映画会社だけど、もちろん俳優なんて考えてないよ。社長命令だから東映の本社へ行けと言われて、会社の仕事を何かするかと思ったら、撮影所の俳優だって。それが始まりさ」(八名)のだという。ただ、映画との縁も少年時代から始まっていたといい、それは野球も同様だった。

鮮明に残る故障の瞬間


東映で3年間、プレーした八名


 岡山県の出身で、「進駐軍のジープが来て、軍人が運動場でキャッチボールをしていたのが、初めて見た野球。あんなに面白いものがあるのか、と思ってね」(八名)。中学では捕手として岡山市の頂点に立ち、岡山東高へ。先輩には大洋でもバッテリーを組んで初の日本一へと引っ張っていく秋山登土井淳がいた。秋山らが明大へ進むと、後を追うように明大へ。すぐに投手として活躍を始めたが、秋山らの活躍に嫉妬した仲間たちに言いがかりをつけられ、殴られる毎日。「同期の近藤カズ(和彦)が用意してくれた店にかくまってもらったんだ。それで、これはもうプロに行くしかないと」(八名)中退して、1956年に東映へ。ほかにも広島など3球団から誘いがあった。

 入った寮は「もともと病院だったんだ。俺は1人部屋で、夏に蚊が来ないくらいアルコール臭い部屋だった。あとで聞いたら死体安置所だったらしいよ(笑)」という。スリークオーター気味のフォームからのシュートが武器だったが、「たいしたことない選手だった」とも振り返る。当時は南海と西鉄が覇権を争っていた時代。「この2チームとやるときは俺たち二線級が投げるんだ。どうせ勝てないからってね」(八名)と、1年目は9試合に登板して0勝1敗に終わる。

 その後も勝ち星のないまま、迎えた3年目。「けっこう調子がよかったんだ。それが8月の近鉄戦で大ケガ。プレートを蹴ったスパイクが抜けなくなり、後ろに倒れ込んだ。腰がグッと曲がったままね。それで動けなくなってしまった。もう終わったって、その瞬間に思ったよ。(回復まで)何カ月もかかったな。それでクビだね。『いらねえ、おめえは』という感じさ」(八名)。この挫折が転機となるわけだが、2015年のインタビューで、こうも語っている。「役者のほうが長くなったけど、元プロ野球選手という誇りはある。いまもフライヤーズのマークをつけていたという誇りは持ってるよ」。

 野球についても、八名は雄弁だった。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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