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プロ野球20世紀・不屈の物語

通算登板、勝利、投球回は歴代2位。“ガソリンタンク”本当の脅威とは?/プロ野球20世紀・不屈の物語【1956〜77年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

二重契約のスタート


“ガソリンタンク”の異名を取り、通算350勝をマークした米田


「まあ、やるだけやったと言えるんじゃないですか」

 近鉄で現役を引退したとき、こう言って1956年からの22年を振り返ったのは米田哲也だ。この言葉を否定できる人はいないはずだ。3チームにまたがって、投げたのは949試合。21世紀に入って中日岩瀬仁紀に更新されたが、四半世紀を超える長い時間、プロ野球記録だった数字だ。投球回は通算5130イニング。この数字には、さすがの岩瀬も遠く及ばない。ただ、登板だけでなく、投球回、そして通算350勝も歴代2位。国鉄と巨人でプロ野球記録の400勝を残した左腕の金田正一を登板では5試合だけ上回ったものの、投球回も勝ち星も金田に届かなかった。

 プロ野球記録の保持者は語り継がれることが多いが、2位になると、その頻度はガクンと落ちる。一方で、通算被安打4561、通算失点1940、通算自責点1659は米田が保持しているが、ネガティブな記録でもあり、それを称えられることは少ない。だが、投げ続けなければ、これほどまでに打たれることもないことも確かだ。これらも底なしのスタミナで“ガソリンタンク”の異名をとった男の勲章であることも間違いないだろう。走り続ける車ではなく、その車にエネルギーであるガソリンを供給する燃料タンクそのものというニックネームも絶妙だった。

 だが、プロのキャリアは混乱のスタートだった。鳥取県の出身で、高校時代の米田が初めて見たプロ野球の試合は米子球場での阪神と国鉄との試合で、阪神は渡辺省三、国鉄は金田が投げていたが、「渡辺さんは球が遅いし、金田さんは速いけどコントロールが悪かった。僕は高校からカーブ、シュート、スライダー、なんでも投げた。よく社会人とも練習試合をしたけど、打たれた記憶がない。これなら(プロで)いける」と思ったという。

 そんな高校生をプロが放っておくはずもない。阪急(現在のオリックス)、阪神、毎日(現在のロッテ)、地元にも近い広島のスカウトが来た。一番、熱心だったのが阪急で、米田も入団を決めたが、いつの間にか家族が阪神と契約してしまう。ドラフトが定着した昨今は見られないが、当時は頻発していた二重契約だ。「1週間、阪神のユニフォームを着て練習もしました。二重契約と騒がれ、最後はコミッショナー事務局に、どっちに行きたいと聞かれて。給料は安かったけど、背番号18をもらえるならと阪急を選びました」と米田。だが、阪急は“灰色”と揶揄されるほどの低迷チーム。プロ4打席目で満塁本塁打を放つなど打撃も良く、入団の直後には打者に転向する話もあったというが、1年目から投手としての米田に大きな負荷がかかっていく。

タフネスの理由


「どうしてタフだったんですか、と聞かれるけど、責任感が大事だった」と米田は振り返っている。プロ2年目の57年に就任した藤本定義監督に試合を任され続けたことが責任感を生むようになったという。その57年が初の2ケタ21勝。翌58年にはパ・リーグ新記録の11完封を含む23勝を挙げたが、「打線が打てんから0点に抑えるしかなかったんですよ」と米田は笑う。その翌59年にはリーグ最多の24敗。左腕の梶本隆夫と左右両輪の“ヨネカジ”で引っ張ったが、なかなかチームの躍進には結びつかなかった。

 それでも西本幸雄監督4年目の66年には25勝で初の最多勝。68年に自己最多の63試合、348イニング2/3を投げて29勝、阪急のV2に大きく貢献してMVPに輝いたが、「たいしたことあらへん。サイちゃんは42勝(西鉄の稲尾和久が61年に残したプロ野球記録)だからね。昔なら、やっぱり30勝はいかんと」(米田)という。ただ、阪急は翌69年までリーグ3連覇。“灰色”が嘘のような黄金時代に突入していった。だが、74年に上田利治監督が就任すると世代交代が進み、翌75年シーズン途中に志願して阪神へ移籍。ラストイヤーの77年は西本監督が率いる近鉄で過ごして、オフにユニフォームを脱いだ。

 時計の針を米田のプロ1年目に戻す。1年目から51試合に登板した米田だったが、勝ち星は9勝。204イニングに投げて防御率2.38も、当時の規定投球回には届いていない。「勝っていても代えられた試合も多かったし、昔は新人には簡単に勝ちをくれんかったから。でも確かに、あと1勝で20年連続2ケタ勝利だから、少し残念ですね」と米田は振り返る。いや、57年から74年までの19年連続2ケタ勝利も、米田だけの記録なのだが。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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