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プロ野球20世紀・不屈の物語

遠い昔の大阪ホークス黄金時代。初優勝の使者は九州男児だった?/プロ野球20世紀・不屈の物語【1948、99年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

2020年の優勝は“ホークス”20度目


4年連続盗塁王に輝くなど、チームの勝利に貢献した木塚


 パ・リーグでソフトバンクが3年ぶりの優勝を飾った。まだ興奮さめやらない地元ファンも多いだろう。九州、福岡は古くから野球に対する熱気がすさまじい土地柄。異例のシーズンとなった2020年だが、優勝の瞬間も歓喜の爆発をグッとこらえたような独特な光景であり、ファンも例年のように大騒ぎするのも遠慮がちに、という世相だ。優勝の達成感とともに欲求不満を抱えている向きも少なくない気がする。選手たちにとって不屈のシーズンは、ファンも不屈。優勝という至高の歓喜も奥歯あたりで噛みしめて、プロ野球も世の中も、この困難を乗り切るために頑張らねばなるまい。

 ホークスがソフトバンクとなったのは21世紀に入ってからだが、地元チームを失い、野球への情熱を持て余していたかのようなファンが待つ九州へやってきたのは1989年。チームは南海からダイエーとなり、本拠地も大阪から福岡へと移転してのことだった。“九州ホークス”としての初優勝は10年後の99年で、これについては過去の内容に詳しい。ホークスとしては26年ぶりのリーグ優勝で、歴史として振り返れば、長く重い低迷に終止符を打ち、黄金時代の幕開けを告げるエポックでもあった。

 この2020年の優勝は、まず「19度目」の優勝として伝えられているが、これは2リーグ制となってからの数字で、チームとしては21度目。“ホークス”というニックネームを冠してからは20度目となる。チームの初優勝は戦後、復活したプロ野球でペナントレースが再開された1946年。もちろん戦後の優勝チームとしては第1号だ。当時のチーム名はグレートリングで、2位の巨人と1ゲーム差という激戦を制しての歓喜だった。初めてホークスと名乗ったのは翌47年6月のことだ。だが、ホークス8チーム中3位に終わる。そのオフ、王座奪還を懸けるホークスは補強に乗り出した。

 新戦力の1人が、奇しくも九州、福岡の出身で、社会人の門司鉄道局ではペンキでバットを赤く塗って“門鉄の赤鬼”と呼ばれていた木塚忠助だ。旧制の唐津中を卒業した際にもプロに誘われた木塚だったが、警察官だった父親に「そんなヤクザな仕事はダメだ」と言われて断念していた。それでも、親に仕送りをするために南海へ入団。現在では考えにくいが、当時は社会人から大学の野球部へ入ることも珍しくなかった時代で、門司鉄道局でプレーしていたときには南海、中日のほかにも法大や明大からも誘われいたという。「ヤクザな」イメージがあったプロ野球とは対照的に、当時の大学野球は花形。門司鉄道局でも自身のラフプレーから警官が出動する騒動に発展したこともある“赤鬼”は、「ヤクザな」プロ野球に転じたことで真価を発揮していく。

ホークス初優勝も機動力で


 当時のプロ野球はホームラン・ブームに沸いていたが、ホークスは機動力と守備が売りのチーム。俊足強肩が自慢の木塚は、そんなホークスでも1年目から遊撃手として全試合に出場している。チームからは河西俊雄が66盗塁で3年連続の盗塁王に。その河西には届かなかったものの、木塚も34盗塁をマークして、チーム218盗塁は全8チームではダントツ。一方の投手陣も別所が26勝、木塚にとっては門司鉄道局の先輩にあたる中谷信夫が21勝、シベリア抑留から生還して入団したばかりの柚木進も19勝と安定して、2位の巨人に5ゲーム差をつけて、2年ぶり、ホークスとなってからの初優勝に輝いた。

 これが結果的に1リーグ時代では最後の優勝となったが、2リーグ制2年目の51年に優勝すると、ホークスは黄金時代に突入していくことになる。木塚も2年目の49年に59盗塁で初の盗塁王に輝くと、以降4年連続で盗塁王に。大胆なスタートながら、通算盗塁成功率.808という圧倒的な安定感を誇った。

 このときの黄金時代では、ホークスの内野陣は“百万ドルの内野陣”と称されていた。一塁は勝負強さと長打力も兼ね備えた飯田徳治、二塁は三塁手から転向した兼任監督の山本(鶴岡)一人と、その後継者としてテスト生から頭角を現した岡本伊三美、三塁が蔭山和夫。そんな中でも遊撃の木塚は別格で、その強肩は山本をして「バカ肩」と言わしめている。曲がったことが大嫌いで、「木塚は記録のために走っている」と言われて走るのをやめてしまい、巨人が獲得に動くと「カネさえ積めばどうにでもなる、という態度だったので、相手にもしませんでした」という好男児でもあった。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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