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ドラフト外“コネ”入団から1億円プレーヤーとなった長身右腕とは

 

伯父の教えを守って


広島時代の金石(左)。右は捕手の達川光男


 ドラフト外での“コネ”入団から、1億円プレーヤーにまで上り詰めた稀有な選手が金石昭人だ。PL学園高時代はエース・西田真二(法大を経て広島にドラフト1位で入団)の陰に隠れた存在。3年夏には背番号「10」で甲子園出場を果たし、チームは全国制覇を成し遂げるも、金石がマウンドに上がることはなかった。

 そんなピッチャーが1979年にドラフト外とはいえプロの世界に入ることができたのは、伯父の金田留広の尽力によるものだった。伝説の400勝投手・金田正一の実弟で、最多勝2度、パ・リーグMVPにも輝いたことのある投手だ。その金田留がロッテから広島に移籍する際、甥・昭人の入団を頼み込んだというのである。

 球史に名を残す伯父たちを持ち、甲子園優勝校の出身。加えて、195センチという長身もプロ入りを後押ししたに違いない。金石は伯父・金田正の「ランニング・イズ・マネー」の言葉を実践し、走って、走って、己を磨いた。「ゼニの取れるピッチャーになりたければ、走れ」という教えである。

 しかし、当時の広島は「投手王国」と呼ばれていたチーム。チャンスはなかなか巡ってこなかったし、与えられてもつかめなかった。6年間、ファームでくすぶっていた金石の支えになったのは、「ウチに来ればローテーションに入れる」という他球団関係者の言葉だったという。

 そして、プロ7年目の85年、ようやく一軍に定着。それまで一軍未勝利の投手が開幕3連勝をマークすると、6勝のうち5試合を完投で飾るという期待以上の活躍を見せた。翌86年には12勝6敗の好成績で優勝に貢献。西武との日本シリーズでは2試合に先発し、第4戦は先制タイムリー、第8戦は2ラン本塁打とバットでも存在感を示した。

 しかし、その後は腰や肩の故障にも悩まされ、2ケタ勝てないシーズンが続く。91年は10試合に先発したものの、こだわってきた完投は0。途中からリリーフに配置転換され、「出番は大野豊さんが打たれた後か、大野さんにつなぐピッチャーが同点に追いつかれたり、逆転されたときだけ。ベンチやブルペンに待機しているだけでは評価を得られない」と危機感を募らせた金石は、オフの契約更改の席上、トレードを直訴する。当時は年俸に不満を抱いていたかのような報道もあったが、働き場所を求めての行動だった。

日本ハムで遂げた復活


日本ハムでは先発、抑えで活躍した


 12月、日本ハム・津野浩との交換トレードが成立。移籍初年度の92年に自己最多の14勝(12敗)を挙げ、復活を遂げた。特筆すべきは、うち10勝が完投だったこと。近鉄・野茂英雄、日本ハム・西崎幸広など、DH制のパ・リーグには「先発完投型」の投手がまだ多くいた時代だが、それでもこの完投率はすごい。前半戦ですでに10勝をマークしており、広島時代の86年に続いて2度目のオールスター出場も果たしている。

「ずっとAクラスだった広島から来た投手が、こんなものかと思われるのが嫌だった。無様なピッチングをすれば、自分の評価が下がるだけでなく、広島が笑われ、大げさに言えば、セ・リーグが笑われる」

 新天地での活躍の要因について、金石はこう語った。

 93年からはクローザーに転向し、9勝13セーブ(1敗)。96年までの4年間で76セーブをマークした。こうした活躍で、金石は日本ハム球団史上初の1億円プレーヤーとなっている。

 しかし、97年に暗転。わずか6試合登板、0勝1敗、防御率9.64に終わると、戦力外通告を受けた。引退も考えたが、不振の原因が肩や腰の状態の悪さにあると考え、現役続行を希望。98年2月、宮崎キャンプで巨人のテストを受けた。フリーバッティングから全力投球し、首脳陣にアピール。最終クールの2月26日、紅白戦で2イニングを1安打無失点に抑えて、長嶋茂雄監督から直々に「合格」を伝えられた。

 4月3日、ヤクルトとの開幕戦(神宮)で9回二死満塁から登板すると、三振でゲームセット。移籍後初セーブをマークし、その後の活躍が期待されたが、本人は「そこで気持ちが切れてしまった」という。「ホッとしたというか、キャンプでやったことが報われたな、と」。5日の同カードでもセーブを挙げたものの、キャンプ初日から全力で駆け抜けたこともあり、次第に腰やヒザが悲鳴を上げていく。結局、その年限りで引退を決めた。

「日本ハムで終わらずに、巨人にチャレンジして正解だった」と金石。プロ20年間で残した成績は329試合、72勝61敗80セーブ、防御率3.38だった。引退後は野球評論家として活動する傍ら、東京都内で複数の飲食店を経営している。

写真=BBM
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