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落合博満が「すごい投手を見た」と脱帽 「韓国の至宝」と呼ばれた親日家の剛腕は

 

韓国球界で「敵なし」


中日の守護神として一世を風靡した宣


 韓国プロ野球通算146勝40敗132セーブ。「韓国史上最強の投手」として数々の偉業を打ち立て、日本球界でも活躍した右腕がいる。中日の守護神として活躍した宣銅烈だ。

 宣はアマチュア球界の時から別格の存在だった。光州第一高で全国大会優勝、高麗大1年のときはAAA世界野球選手権大会で優勝と絶対的エースとして君臨する。実業団野球の韓国化粧品に入団すると、実業団の選手は2年間プロ入りができないという規定があったが、韓国野球委員会から特例が認められ、85年のシーズン後半から韓国プロ野球のヘテに。25試合に登板し、7勝4敗8セーブ、防御率1.70で最優秀防御率を獲得する。翌86年も24勝6敗6セーブ、防御率0.99、214奪三振で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振で投手三冠に輝いたほか、シーズン8完封のシーズン新記録を樹立した。

 最速155キロの直球と鋭く横滑りする高速スライダー、縦のスライダーを武器に制球力も抜群で精神面も強い。その後の活躍も異次元だった。入団以来7年連続を含む8度の最優秀防御率、4度の最多勝。30歳の93年に守護神に転向すると10勝3敗31セーブで最多セーブに。防御率0.78は韓国プロ野球の最高記録だ。

 韓国で「敵なし」の宣は日本の打者の間でも有名だった。当時日韓の選抜チームが戦う「日韓プロ野球スーパーゲーム」で宣は初開催された91年の大会に出場。3回で5者連続三振を奪い無失点と衝撃的な投球を見せる。日本の四番・落合博満は空振り三振を喫し、「ストレートには評判どおりの威力があるし、スライダーは実に素晴らしい。韓国No.1という評判はダテじゃない。すごい投手を見たよ」と脱帽した。

 2度目の最多セーブを獲得した95年オフ。「自分の力を日本で試してみたい」と表明する。巨人も獲得に参戦したが、星野仙一監督が就任した中日が争奪戦を制す。韓国プロ野球から日本球界への来日移籍選手第一号となり、注目度は高かった。韓国のメディアは宣を取材するため日本に殺到。守護神として期待されたが、待ち受けていたのは試練だった。

 96年4月5日の広島との開幕戦で1点リードの9回に来日初登板したが、ルイス・ロペスに同点打を浴びてセーブ失敗。4月16日の巨人戦でも3点リードの8回に登板したが、三番・シェーン・マック、五番・落合博満に本塁打を浴びて再びセーブシチュエーションで失敗する。「結果を残さなければいけない」という重圧から力んで制球が甘くなり、持ち味を失っていた。敗戦処理や二軍落ちを味わうなど、5勝1敗3セーブ、防御率5.50。不本意な成績で大きな挫折を味わった。

来日1年目の挫折から……


1999年、11年ぶりの優勝時には胴上げ投手になった


 宣がすごいのは悔しさを糧にしてプライドをかなぐり捨てたことだ。不振の一因としてコミュニケーション不足であることに気づき、日本語を学び始める。散歩の途中に日本語の看板で意味が分からない文字を見つけると、その場でメモして自宅に戻って辞書で調べたり、カラオケや麻雀をしたりする中で覚えた。翌年には日常会話をこなせるまで日本語が上達した。

 97年から本拠地がナゴヤ球場から広いナゴヤドームに移ったことも追い風になった。長打を恐れず内角を果敢に突けるようになり、対になる外角へ逃げるスライダーも生きた。同年は当時の日本記録となる38セーブを挙げ、横浜(現DeNA)の佐々木主浩とともにタイトルを獲得。防御率1.28と安定感を取り戻した。

 98年も3勝0敗29セーブ、防御率1.48。99年も28セーブをマークして11年ぶりのリーグ優勝に貢献したが、6月に3試合連続救援失敗でファーム降格するなど防御率2.61。立派な数字だが、理想が高い宣は引退を決意する。球団に慰留されたが、「この辺でやめたほうがファンにいいイメージを残したまま選手生活を終えられると決意した」と意志は固かった。

 親日家であることでも知られた。宣の後に韓国人選手が日本のプロ野球に次々挑戦したが、「日本で韓国人の待遇が悪かった」と漏らした選手に、「実力不足を言い訳にするな」と叱ったことも。「日本で差別を感じたことはないし、日本や日本人は素晴らしい」とメディアに話すなど謙虚な性格で、日本人選手からも人格者として慕われていた。日本で通算4年間プレーし、162試合登板で10勝4敗98セーブ、防御率2.70。日韓両国で100セーブポイントを達成した初の投手として歴史に名を刻んでいる。

 引退後にサムスンの監督に就任した際は、中日時代のチームメートだった落合英二種田仁をサムスンのコーチに招聘している。韓国代表の監督も歴任。今後も韓国プロ野球の発展に欠かせない人材であるとともに、日韓の架け橋としてかけがえのない存在だ。

写真=BBM
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