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【MLB】なぜダルビッシュは大差で負けたのか? サイ・ヤング賞投票調査

 

まさかの大差でサイ・ヤング賞を逃したダルビッシュ。記者のそれぞれの考え方も分かり、この賞の受賞のむつかしさも分かった



 カブスのダルビッシュ有投手が1位票獲得でレッズのトレバー・バウアーに27対3と大差をつけられ、サイ・ヤング賞獲得はならなかった。筆者は30人の投票者のうち22人に連絡を取り、投票に当たってどう考えたのかを問うた。

 まず13人(59パーセント)が「今までで一番難しく、甲乙つけがたかった」と明かした。つまりダルビッシュに何か一つ強力なプラス材料があればひっくり返っていた。ダルビッシュに投票した3人はこう説明した。MLB公式ホームページのA・J・カサベル記者は防御率でバウアーの1.73に対しダルビッシュの2.01と差があるように見えるが、ほぼ同じだと言う。
 
 理由はバウアーの9月4日のパイレーツ戦、4失点が自責1になったからだ。4回に先頭打者がエラーで出塁、二死から連打を浴び、ワイルドピッチもあって3失点。これを仮に自責として防御率に入れると2.10。

 一方ダルビッシュにも自責がつかなかった失点が1あり、これを入れると2.13である。その上でカサベル記者がダルビッシュに決めたのはより強いチームと対戦したから。ホワイトソックスと2度、カージナルスと2度、ツインズと1度。ダルビッシュの対戦チームの平均wRC+は94、バウアーは89だった(wRC+は平均的な打者を100として何パーセント得点を多く(少なく)創出しているかをはじき出したもの)。

 NBCスポーツのゴードン・ウィッテンマイアー記者も「ダルビッシュはプレーオフに出なかったチームとは2試合しか対戦がない。一方バウアーは5試合で、強力打線ではホワイトソックスと1度対戦しただけ」と指摘した。

 もう一人、ダルビッシュに入れたのはUSAトゥディのベテラン記者ジョン・パーロット。近年勝ち星は考慮に入れない記者が多い中で「2人は同じ地区で優勝を争い、ダルビッシュは8勝。バウアーは5勝だった」と言う。勝ち星を重視したのは22人中1人だけだった。

 22人中13人(59パーセント)が、防御率、WHIP、被打率が重要な指標で、ゆえにバウアーに入れたと説明した。許したヒット数はバウアーの41本に対しダルビッシュは59本で、これがWHIP、被打率の差に直結している。しかしながら安打数は後ろを守る守備陣、ないしは運が関係する。ゆえにFIP(守備から独立した投球データ)を信じる記者がMLBには少なくない。

 被本塁打、与四死球、奪三振のみで計算するもので、ダルビッシュは2.23でバウアーの2.88を上回った。しかしながらジ・アスレチックのアンドリュー・バガリー、シンシナチ・エンクワイラー紙のボビー・ナイチンゲールなど今回はFIPよりもERA(防御率)を信じる記者の方が多かった。

 さらにもう一つ、決め手となったのは9月23日の最後の登板でバウアーが中3日で、8回4安打1失点12奪三振とチームをプレーオフに導く好投をしたこと。これを主要因とした人も8人(36パーセント)いた。筆者は、今回投票しなかった主に30代の記者たちから「大事な試合というのは抽象的な考えだし、消化試合の方がむしろ集中が難しく投げにくかったりする。だから試合の重要性は考慮しない」と聞かされていたので8人という数字に少し驚いた。

 しかも相手のブリュワーズは今季得点数が247で全体26位の貧打線である。筆者自身はバウアーが勝つとしてもダルビッシュに10個くらいは1位票が集まると予想していたので意外な結果。記者たちの協力のおかげで、今回の投票者の考え方が判明したのは良かった。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images

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