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伊原春樹が考える今季のMVP、新人王。パの新人王は小深田か、平良か…

 

貪欲に進化だけを追い求める姿勢に脱帽



 新型コロナウイルスの感染拡大という“見えない敵”との闘いもある中、今季も無事に終えることができたのは喜ばしいことだ。あらためて、選手をはじめ関係各位の頑張りに敬意を表したい。120試合制となった今季だが日々、熱戦が繰り広げられた。タイトルホルダーも確定したが、ここではまだ決まっていないMVPや新人王などの行方を占ってみたい。

 まずはセ・リーグのMVPからいこう。今季のセは巨人が2年連続、38度目のリーグ優勝を飾った。直前はもたついたが、V決定時点で2位とは8.5ゲーム差で開幕以降、首位の座を明け渡したのはわずか2日間。独走優勝と言っていいだろうが、その要因となったのはやはりエース・菅野智之の存在だ。

 プロ野球記録となる開幕投手からの13連勝を達成するなど14勝2敗、防御率1.92。最多勝、最高勝率(.875)に輝いたが、何よりも一人で貯金12を稼いだのが素晴らしい。今季は投球動作に入る前に、左手のグラブを右肩付近まで引いてから始動する“うで主導”のフォームを取り入れたことで、体の開きが抑えられ、腕の振りが鋭くなった。その結果、球速もアップし、フォークの落差も増した。貪欲に進化だけを目指す、その姿勢は脱帽だ。とにかく、菅野がいなければ、巨人が簡単に優勝することはなかった。MVPにふさわしい存在だ。

ソフトバンク攻撃陣のまさに大黒柱



 パ・リーグMVPは柳田悠岐(ソフトバンク)で間違いないだろう。昨季は左ヒザ裏肉離れのため長期離脱したが、今季は1試合に欠場したのみ。打率.342(リーグ2位)、29本塁打(同3位)、86打点(同3位)と打撃3部門でハイレベルの成績を残して3年ぶり優勝の原動力となった。特に7月は打率.433、7本塁打、20打点と大爆発。月間32得点のプロ野球タイ記録もマークして一気にチームを首位に押し上げると、8月も10本塁打を放った。勝負の10月にも安打を積み重ね、通算146安打。自身初となる最多安打のタイトルを獲得した。

 やはり、あれだけフルスイングしながら、打率を残せるバッティングは異次元だ。出塁率もリーグ3位の.449を残して、同1位の90得点も記録しているが、自身で走者をかえすのはもちろん、出塁することで得点の起点となっている。まさにソフトバンク攻撃陣の大黒柱だった。

すべてがハイレベルの森下



 セの新人王は森下暢仁(広島)、戸郷翔征(巨人)の争いとなった。高卒2年目の戸郷も9勝を挙げるなど優勝したチームで奮闘したが、やはりすべての数字が上回っている森下が選ばれなければおかしいだろう。

 今季、明大からドラフト1位で入団した森下。即戦力の期待に違わぬ活躍を見せた。開幕から先発ローテーションに入り最後まで役割を全う。18試合の登板し、チームトップの10勝(3敗)、防御率1.91と抜群の安定感。三振数もリーグ3位の124をマークしたが、何よりも、5位に終わったチームで貯金7を稼いだ“勝てる”投球が素晴らしい。54年ぶりの快挙も達成した。規定投球回に到達した新人の2ケタ勝利と防御率1点台は、66年の堀内垣夫さん(巨人)以来で、球団史上初。シーズン終盤は最優秀防御率争いにも名を連ねたのだから文句をつけようがない。

 森下の優れている点は、まずストレート。150キロに迫り、抜群のキレ味を誇る。さらにタテのカーブ。これを巧みに挟み込み、緩急をつけるピッチングで相手を翻弄する。そして、何よりもその他の球種も含めてコントロールがいい。高レベルの球種を思いのままに制球できるから、相手にとって攻略は困難だ。昨秋のドラフトで森下は広島の一本釣り。佐々岡真司監督が「一目ぼれした投手だった」と言うが、あらためて競合にならなかったのが不思議だし、広島にとってはしてやったりであっただろう。

攻守走に安定感があった小深田



 パの新人王は小深田大翔(楽天)、平良海馬西武)の一騎打ち。小深田は112試合に出場して、打率.288、3本塁打、31打点、17盗塁、平良は54試合に投げて、1勝0敗33ホールド1セーブ、防御率1.87と、どちらも素晴らしい成績を挙げた。しかし、小深田は純粋な1年目。平良は3年目で昨季も26試合に投げて、2勝1敗6ホールド1セーブ、防御率3.38をマークしている。昨季、投球回が24回にとどまり、今季に新人王の資格を残していたわけだが、その点を考慮すれば小深田に軍配が上がるのではないか。

 大学、社会人を経ての入団で今年25歳となる小深田は開幕一軍入りをクリアしたが、当初は代走、守備固め要員という立場に過ぎなかった。だが、7月に入り、正遊撃手の茂木栄五郎がコンディション不良で欠場。代役の遊撃手として先発出場の足掛かりをつかむと、7月8日に.154と低迷していた打率は上昇カーブを描いたが打撃はしぶとい。後半には逆方向の打球も増えた。打席では簡単に空振りをせず、ファウルで粘る。出塁率は.364とチームでは.408の浅村栄斗に続く2位だ。

 遊撃守備も巧み。安定感があり、無難に守る。今季のエラーは8個。遊撃でこの数なら立派なものだ。来季、3割30盗塁が期待できる選手であるだろう。

写真=BBM
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