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プロ野球20世紀・不屈の物語

打撃フォームに試行錯誤…野村に“特攻隊”と呼ばれた死球王、田尾と首位打者を争った安打製造機/プロ野球20世紀・不屈の物語【1968〜87年】

 

歴史は勝者のものだという。それはプロ野球も同様かもしれない。ただ我々は、そこに敗者がいて、その敗者たちの姿もまた、雄々しかったことを知っている。

変則打法の今昔


西鉄時代の竹之内。打撃フォームは毎日のように変わった


 個性的なフォームにはニックネームがつきものだ。打者であれば、筆頭格として並ぶのは巨人王貞治の“一本足打法”、オリックスからメジャーへ羽ばたいたイチローの“振り子打法”ではないか。いずれも微調整こそあれ、それぞれの打法を貫いて、球史に燦然と輝く結果を残した。

 ロッテを皮切りに4チームでプレーした落合博満の“神主打法”も有名だが、これは由緒のある(?)打法で、元祖は1リーグ時代の南海(現在のソフトバンク)でプロのキャリアをスタートさせた岩本義行が顔の正面にバットを立てて構えた姿から命名されている。岩本はヘルメットもない時代に頭部死球を受けても平気な顔をしてプレーを続けたという伝説的なタフガイだ。岩本が引退したとき、まだ落合は4歳。落合の“神主打法”はロッテ時代、先輩で捕手の土肥健二が手首を柔らかく使い、しなやかにスイングしているのを参考にしたものだった。

 いずれも登場した際には異彩を放った打法だが、王の“一本足打法”は片平晋作(南海ほか)や大豊泰昭中日ほか)、落合の“神主打法”は助っ人のゲーリー(中日)、“振り子打法”は坪井智哉阪神ほか)らに影響を与え、それぞれが自分なりにアレンジを加えて結果につなげている。彼らをマネした野球少年も含めれば、かなりの影響力があった打法ともいえるだろう。

 なかなか追随する選手が現れなかったという意味で個性が深まっていくのは、近鉄から小川亨の“くのいち打法”と梨田昌孝の“コンニャク打法”が真っ先に思い浮かぶ。ともに試行錯誤の末に編み出されたもので、特に梨田はヤジられながらも研究を続けて、結果を残したことでヤジを静かにさせた。梨田と同じ捕手では、中日の木俣達彦が自らの“マサカリ打法”に宮本武蔵の呼吸法、王の“一本足打法”を取り込んだという“変則マサカリ打法”も印象に残るが、“変則”に進化したのも、自らの欠点を見つめ、さらに上を目指すための試行錯誤があったからにほかならないだろう。

 ただ、その打法よりも、試行錯誤の姿のほうが印象に残る男たちもいる。変則的な打撃フォームの話題で、必ず名前が挙がってくるのが竹之内雅史。これ、という打法はない。というのも、試行錯誤どころか、フォームを毎日のように変えるほど凝りまくったためだ。竹之内をマネしたものの次の日には竹之内の打法が変わっていた、という経験がある当時の野球少年もいることだろう。当時は画期的なオープン打法があったかと思えば、極端すぎるクラウチング打法もあり、とにかく多彩。数えきれないほどの打法の中には、「意図的ではなく、踏み込む意識を作りたくて」(竹之内)左足をブラブラさせる“振り子打法”もあった。

長い時間をかけて


プロ入りから8年をかけて完成させた長崎の構え(大洋時代)


 竹之内は1968年に西鉄(現在の西武)へ入団。西鉄が“黒い霧”に覆われたのは、そのオフのことだ。西鉄を中心に球界が荒れに荒れた翌69年にはクリーンアップを任された。ただ、打撃よりも目立ったのが死球。以降3年連続、4年連続と計7度の“死球王”となり、2ケタ死球は通算11度を数える。南海の野村克也に「おい特攻隊。当たらんようにせえ」とささやかれると、まだ若手の竹之内は大ベテランの野村に向かって「うるせえ、おっさん」と言い返したという。乱闘でも真っ先に飛び出すほど血の気が多い男で、「死球が多いほうが調子がいい」と言っていたことも。だが、阪神へ移籍して3年目の81年に死球で骨折。右手の握力が激減して、82年に引退を余儀なくされた。

 どこか打法に凝ることを楽しんでいるようにも見えた竹之内とは対照的に、悩みに悩み抜いたのが大洋(現在のDeNA)の長崎慶一(啓二)だった。大洋の先輩にはバットを担ぐように構える“天秤棒打法”の近藤和彦もいるが、スイングに入ると意外に(?)オーソドックス。長崎も独特だったのは構えで、背中をかがめてグリップを下げ、脱力しきったかのような姿で投球を待った。ただ、これが完成したのは80年。プロ入りから8年もの時間を要している。

 長崎は竹之内のラストイヤーでもある82年に打率.351で首位打者に輝いたが、激しくタイトルを争った中日の“円月打法”田尾安志が最後に全5打席で敬遠されたことで非難の矛先が向けられ、苦悩したこともあった。長崎も最後は阪神で引退したが、移籍1年目の85年に初めて優勝を経験し、日本シリーズ第6戦(西武)では1回表に満塁弾を放ち、歓喜の日本一を引き寄せている。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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