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都市対抗準優勝…印象的だったNTT東日本主将の言葉「強豪であり続けないといけない責任」

 

さらけ出した胸の内


NTT東日本の主将・喜納はHondaとの都市対抗決勝の2回表に同点適時打を放っている


 新型コロナウイルスの感染拡大を受け「日常」が奪われた2020年。アマチュア球界は大会中止が相次いだ。高校は春・夏の甲子園、大学は全日本大学選手権、明治神宮野球大会(高校の部を含む)と「日本一」を決める場が消滅した。一方で、社会人の都市対抗(東京ドーム)が唯一、開催された。

 社会人野球は負ければ終わりのトーナメントが原則であり、「1試合」にかける思いは相当の緊迫感がある。特に2020年は春先の各JABA大会、日本選手権が中止。この都市対抗しか、力を発揮するステージはなかった。例年以上に「1球への執着心」を、ひしひしと感じたものである。

 12月3日。Honda(狭山市)の11年ぶり3度目の優勝(4対1)で幕を閉じたが、準優勝のNTT東日本(東京都)の戦いぶりも立派だった。32チームが出場。NTT東日本の組み合わせは最も右端であり、1回戦は最終16試合目の大会6日目だった。中2日で2回戦を迎え、以降、準々決勝、準決勝、決勝と4連戦という超過密日程だった。例年であれば、春先から公式戦を重ねていくが、今年の公式戦はこの都市対抗のみ。オープン戦(練習試合)で緊張感を高めた取り組みで準備してきたとはいえ、東京ドームでの1試合の疲労感は、比較にならないほど大きい。しかし、敗者として「疲れ」を言い訳にすることはない。

 主将・喜納淳弥(桐蔭横浜大)の言葉が印象的だった。

「優勝を目指しているチームなので、決勝で負けても、1回戦で負けても、黒獅子旗(優勝旗)を取れなかったことには変わりはない。黒獅子旗を取らないことには、意味がない。僕らの努力は、報われない。黒獅子旗は僕らの使命であり、求められているのはそこ。今年、引退する選手もいるので、黒獅子旗を取って引退していただきたかった。白獅子旗(準優勝旗)じゃあ、違う。試合に出ていた者の責任だと思います」

 喜納は2回に同点適時打を放って意地を見せるも、結果がすべて。納得できない。

 36年ぶり2度目の優勝を遂げた2017年以来、3年ぶりの決勝進出。報道陣から「この短い期間で決勝の舞台に戻り、力を見せられたのでは?」という質問が出た。群雄割拠の社会人球界。確かにファイナルへ進出すること自体が、称賛すべきことではある。しかし、喜納の熱いハートにさらに火がついた。「そうですね……」としばらく考えた後に、胸の内をさらけ出したのである。

「僕たちはNTT東日本というチームに誇りを持っていますし、入社してくる選手も『日本一を狙うチーム』としての覚悟がある。強豪であり続けないといけない責任がある」

会社の看板を背負って戦う自覚


 強豪、とはどういうレベルなのか? 喜納が設定するハードルは、あまりに高かった。

「決勝進出、ベスト4、都市対抗出場……。『強豪』というのは、コンスタントに優勝するチームだと思う。作り上げられるように頑張っていきたい」

 企業が野球部を持つ一つの大きな目的は、社員の「士気高揚」にある。今大会は新型コロナウイルスの感染予防対策により、東京ドームでの組織的な応援はできず、社員はメッセージ動画等で声援を送るシーンもあった。感染予防対策により、東京ドームへ足を運べない関係者は、ライブ動画などを通じて必死なプレーを目に焼きつけた。喜納は「黒獅子旗を取ることがすべて」と語ったが、職場の受け取り方は違うはず。一つの目標へ向かってまい進する姿から、努力を継続する大切さを共有できたはずだ。

 喜納は選手を代表して、頭を下げた。

「予選からいろいろな方に支えられました。NTTの会社、職場、スタッフ、仲間、ここまで野球ができたことに感謝したいです」

 真剣勝負の場に身を置き、会社の看板を背負って戦う自覚。アマチュア最高峰の社会人はプレースタイル、戦術、試合の進め方ほか高校生、大学生にとってすべてが「見本」と言われる。明日なき「一発勝負」でしか学べない「負けない野球」が凝縮されているからだ。日本一を決める各大会の中止が相次いだコロナ禍だからこそ、社会人野球の存在意義を示した2020年だった。

文=岡本朋祐 写真=松田杏子
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