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背番号物語

【背番号物語】近鉄「#1」パ・リーグの悲劇…唯一の永久欠番は球史に消えた球団“草魂”の象徴

 

1年目から欠番


近鉄で背番号「1」を着け、通算317勝をマークした鈴木


 背番号の永久欠番は球団が存続していることが前提だ。球団がなくなりさえしなければ、未来永劫、誰も着けることがない欠番という空席として、背番号は残り続ける。だが、長嶋茂雄であれ王貞治であれ、もし巨人がなくなってしまったら、その永久欠番も消えることになる。球団がなくなることもさることながら、永久欠番となった選手の功績までが失われてしまうようで、なんとも寂しいものだ。

 2021年を迎えた現時点で、こうした悲劇は1度だけしかない。球界再編の嵐が吹き荒れた2004年オフにオリックスと合併する形で消滅した近鉄の「1」。通算317勝を残した左腕の鈴木啓示が一貫して背負い続けた背番号だ。20世紀のパ・リーグでは最初にして最後、つまり唯一の永久欠番でもあったが、近鉄の消滅により“失効”となり、新たに誕生した楽天ではファンの背番号として「10」が1年目から永久欠番となったものの、選手の実績による永久欠番も、近鉄とともにパ・リーグから消滅してしまった。

 鈴木はドラフト2位で1966年に入団。兵庫県の出身で、「物心ついたころからの阪神ファン」(鈴木)、特に「11」を永久欠番にした村山実のファンだったという。その阪神から育英高を中退して入団するように誘われたこともあったが、周囲から「卒業してからのほうがいい」と言われて、このときは断った。だが、ドラフト制度が導入されたことで風向きが変わり、その第1回ドラフトで阪神は指名を見送り、近鉄が2位で指名。入団を決めると、「日本で一番の投手になりたい」と、高卒ルーキーの投手としては珍しい「1」を背負うことになった。

 このとき、セ・リーグでは巨人で王、中日高木守道、大洋(現在のDeNA)で近藤昭仁広島古葉竹識と、打線の中軸を担う選手が着けていた「1」だが、一方のパ・リーグは、それほど「1」を特別なナンバーと意識する傾向が弱かったのも事実。2リーグ分立を機に結成され、50年にプロ野球へ参加した近鉄は、いきなり1年目は欠番だった。

【近鉄】主な背番号1の選手
武智修(1953〜57)
矢ノ浦国満(1963〜65)
鈴木啓示(1966〜85)

 近鉄2年目の51年に内野手の和田久太郎が着けたのが最初だが、30歳で入団した和田は一塁の控えや代打で26試合の出場にとどまり、1年で引退。翌52年には外野手の中田庄治郎が着けたが、遊撃の守備に就いた1試合の出場に終わり、やはり1年で引退した。その翌53年に武智修が背負ったことで、歴史が動き出す。

一時は指導者のナンバーに


コーチとして近鉄で背番号「1」を着けた木塚


 酒豪としても名を残す武智は1リーグ時代の43年に阪神へ入団した内野手で、阪神と3チーム目の阪急(現在のオリックス)、4チーム目の広島では投手も兼任した“二刀流”。プロ11年目に近鉄へ移籍してきてからは一塁のレギュラーとなって、主に三番を打って55年には打率.300をマークした。武智の引退で継承した加藤晃郎も中日(名古屋)では投手を兼ねた内野手。近鉄が4チーム目で、一塁手としても後継者となって移籍1年目の58年は五番を打ったが、翌59年いっぱいで引退している。

 そこからは指導者のナンバーとなり、平井三郎木塚忠助と、1リーグ時代に選手として活躍した男たちがコーチとしてリレー。60年に近鉄へ入団、高卒ルーキーながら正遊撃手となった矢ノ浦国満が63年に「1」を背負ったが、65年オフにサンケイ(現在のヤクルト)へ移籍して、「1」は空席となる。このタイミングで入団したのが鈴木だ。

 それまで最長でも武智の5年という短命の「1」だったが、鈴木の背中で20年もの長きにわたって輝くことになる。この間、2ケタ勝利は18度、うち最多勝は3度。硬いアスファルトの下からでも芽を出す雑草に心を打たれて“草魂”を座右の銘にした左腕は、通算317勝を積み上げるとともに、先発としての通算288勝、通算78無四球完投、通算560被本塁打でもプロ野球の“頂点”に立ち、特に被本塁打は「ストライクゾーンで勝負した証。逃げ回ったのと違う。男がケンカして眉間に受けた向こう傷や」と胸を張る。通算300勝を超えたのは、現時点で鈴木が最後だ。

 85年シーズン途中に突如として現役を引退した鈴木は、93年に近鉄の監督に就任。「1」ではなく「70」を着けて、95年シーズン途中まで指揮を執っている。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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