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[MLB]アジア系と女性にとって大きな一歩、キム・アングGM就任

 

アジア系、しかも女性として初のマーリンズのGMとなったアング氏。マイノリティの部分とジェンダーの両方で大きな意味を持つ就任となった。今後の活躍に期待が懸かる


 アメリカのアジア系住民は6〜7パーセント。2020年の開幕ロースターに入った選手の中でアジア系は1.9パーセントだった。ともにマイノリティである。そんな中、中国系女性の51歳、キム・アングがマーリンズのGMに就任した。現ジャイアンツ編成本部長のファーハン・ザイディ(両親はパキスタン出身)に次いで2人目である。

 女性としては初。MLBのみならずNFL、NBAなど北米の男子プロスポーツリーグで初めて女性がチーム作りの最高責任者になった。ご存じのように現在のMLBでは監督以上に、GMがチームの顔でありリーダーと認識される。

ジャマイカ人とインド人の両親から生まれたカマラ・ハリスが初の女性副大統領となるアメリカ。2人の成功はアジア系の人たちの背中を押し、ジェンダー平等がさらに進むのだろう。画期的なことだと思う。筆者は1999年にアングを取材する機会があった。当時ヤンキースのアシスタントGMとしてすでに頭角を現していたからだ。年俸調停、ウエーバーなど選手移籍や契約に強く、いずれ初の女性GMになると見られていた。

 02年にはドジャースのアシスタントGMに転じた。だがGM職はなかなか手に入らなかった。フィリーズ、メッツ、ジャイアンツ、ドジャース、マリナーズ、パドレスなどで候補になり面接の機会があったが、選ばれなかった。マーリンズの就任会見で「面接が公平でないと感じたこともあった」と明かしている。

 言うまでもない。MLB球団のリーダーが務まらないという人種、性別による偏見があったからだ。03年のGM会議である事件が起きた。元20勝投手で、当時メッツのフロントの仕事をしていたビル・シンガーが、ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMとバーで話しているアングを見て、「ここで何をしているんだ」、「どこから来たんだ」と茶化したのだ。

 シンガーは球団を通して「ひどいことを口にして本当に申し訳ない。彼女には謝罪した。願わくば許してもらえれば」と声明文を出したあと、解雇された。シンガーは60年代から70年代に選手として活躍し、引退後も長年スカウトを務めた。06年以降はナショナルズのアジア担当スカウトに雇われたので筆者もよく連絡を取り合った。

 思慮に欠ける部分はあったかもしれないが、気の良い、昔ながらの野球人である。近年、この世代のスカウトたちはすっかり姿を消してしまった。野球界は時代の流れの中で進化していく。人種に関しては、09年にドン・ワカマツがアジア系で初めてメジャー球団の監督となり、20年、日本人のハーフであるデーブ・ロバーツが初めてワールド・シリーズを制した監督となった。

 アメリカではアジア系に対する「権限の大きい役割に消極的で、大人しく、トップには向かない」というステレオタイプの見方があったが、徐々に変わりつつある。女性についても、フロントにとどまらず、1年前ジャイアンツがアリサ・ナッケンを雇ったように、3人の女性コーチがMLBで採用されている。そこにアングGMの誕生。扉はさらに開いた。「人は希望や刺激を求めている。その一部となれたことがうれしい」と本人は語っている。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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