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編集部員コラム「Every Day BASEBALL」

本気で甲子園を目指すことの難しさ/編集部員コラム

 

神宮球場


先日、取材で国学院大野球部にお邪魔した。「恩師が贈る言葉」という週刊ベースボールの連載で、ヤクルト清水昇の大学時代の恩師である鳥山泰孝監督に話を聞いた。

 そこで、すごく印象に残った言葉がある。「結局、野球を続けられる子は、本気で野球が好きな子なんですよ。どんなに才能があっても、野球を捨ててしまえる選手は大勢います。そして、笑われても、何を言われても、『俺はプロ野球選手になるんだ』『誰よりもうまくなるんだ』と、本気で自分を信じられる子だけが成長できる」。

 少し個人的な話になるが、私はそれなりに野球の強い高校に通っていた。今でこそ勢力図は変化しているが、当時は「都立で甲子園を目指すならここ」と言われていた。高校1年生のころだった。「おまえら、そんなんで甲子園に行けるって本気で思ってんのかよ!?」。野球部員が集まっていた教室後方に、クラス中の視線が集まる。いつもワイシャツのボタンを一番上まで留めて、ネクタイをきちんと締めた小柄な野球部員が声を荒げた。別の野球部員は言う。「むしろ、甲子園行けるなんて、本気で思ってんの?」。

 結局、3年間で母校は甲子園に行くことはできなかった。春も夏も秋も、16強、8強に入りながらそれ以上は勝ちきれない。負けるたび、教室で聞いた「甲子園行けるなんて、本気で思ってんの?」という声が反芻された。3年生の夏、小柄で真面目な、本気で甲子園に行きたかったクラスメートは、応援団長としてスタンドから大きな声を出していた。

 「甲子園行けるなんて、本気で思ってんの?」。あの言葉が、彼から本気を奪った気がする。笑われて、バカにされて、本気で甲子園を目指して入学してきたはずなのに、自分を信じることができなくなってしまったと思う。自分を本気で信じ続けることは、言葉にするのは簡単だが、実際はとても難しい。卒業後、この仕事に就いて“名門”と呼ばれるチームでプレーしている選手を見ると、母校が勝ちきれなかった理由も理解できる。本気でやっている人間に、本気になれない人間が勝てるわけがないのだ。

文=依田真衣子 写真=BBM
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