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阪神・村山実監督と金田正泰ヘッドの亀裂が深まる/週べ回顧1972年編

 

 3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

チームの上昇機運の陰で


阪神・金田ヘッド



 今回は『1972年7月31日号』。定価は100円。

 この1年の阪神の話は結構ややこしい。
 まず、ここまでのあらすじ(?)だが、村山実兼任監督の下でスタートも開幕4連敗と出遅れ、球団から「村山には選手一本でやってほしい」と声が上がり(投手村山の集客力もあって)、参謀役だった金田正泰ヘッドコーチが指揮権を預かった。
 そこからチームは調子が上向き、5月21日からの11連勝で一時は首位に立った。その後、ペースダウンし、6月末は3位だったが、ジワジワ上昇し、7月に入り、再び首位巨人が見えてきた、という感じか。

 好調の要因の一つに、投手のスターシステムから総力戦への変換がある。
 阪神は長く、2人の絶対的エースを軸にしてきた歴史がある。このときの現役で言えば、村山、江夏豊だ。彼らのプライドを尊重しながらの戦いで常勝巨人を苦しめてきた。
 ただ、エース級2人がそろった年はよかったが(大抵2人の仲は微妙ながら)、ほかの扱いがややぞんざいになりがちなこともあってか、どちらかが欠けると上位は難しいという展開になっていた。
 この時期なら、村山が選手専念になったとはいえ、故障と年齢もあってフル回転ができず、江夏一人ではどうしたって苦しい。金田ヘッドが半ばヤケクソ(?)とばかり若手投手を使ったことが、奏功しての急浮上。ここまで13人の投手を使い、12人に勝ち星がついていたという。

 ただし、火種はある。
 まずは村山の心だ。選手としての力の低下は自身が一番分かっている。それでなくともプライドはズタズタだ。さらに自分から指揮権が外れ、チームが急浮上している状況が面白いわけがない。
 加えて周囲もある。このチームはとにかく派閥が多い。村山がいくら沈黙しようと、「金田ヘッドが村山をないがしろにしている」と憤る声も多かった。
 その急先鋒が守備コーチ兼任の鎌田実だった。

 7月8日には、その鎌田の3日間の自宅謹慎が発表されている。これは守備中、金田ヘッドが「本塁、一塁」の併殺を指示したのに、鎌田が「二塁、一塁」の併殺を内野手に指示したことに端を発する。
 ベンチでとがめられると、
「ここは二塁、一塁の併殺で行くべきだ。そんなにワシのやることが気に入らんかったら、これから内野コーチも自分で兼任したらええやんないか」
 と言い返す鎌田の声が、ベンチ横のカメラ席まで響き渡った。

 試合後の緊急コーチミーティングでも鎌田は、
「村山監督のときは全部自分がまかされていた。いまもその気持ちでやっている」
 ときっぱり。村山監督もその場にいたようだが、発言はしなかったという。
 実は前年、本屋敷錦吾コーチが自宅謹慎の処分を受け、途中退団したことがあったが、このときは本屋鋪と鎌田が衝突し、村山監督が鎌田を取った形だった。
 担当記者は、
「鎌田は徹底的に村山監督に忠義立てをした。鎌田は村山監督の気持ちを代弁するくらいの気持ちで金田に突っ張ったのではないか」
 と分析した。
 村山の指揮権復帰が7月8日ごろに出るというウワサがあったが、その日に鎌田の処分が出て、復帰話は立ち消えになっている。

 藤本定義元監督は、
「村山でも金田でもいいが、二頭政治は絶対に避けなければならない。金田一本ですっきりしたなら、いいことです。選手の使い方もうまいし、勝負勘もいい」
 と話していた。
 球団も「来季は金田監督」で一本化されてきたようだ。

 村山監督をひたすら立てる金田ヘッドと、指揮権問題について沈黙を守る村山監督の関係も、表面的には波風は立っていないが、水面下での亀裂は徐々に修復不可能なものとなっていく。

 村山監督は故障で体がボロボロでも全盛期同様、報道陣の前では強がる。
「巨人戦なら登板OKや」
 ただし、その陰でコーチには「あかん、投げられない」と平気で言っていた。
 村山が絶対権力者であれば、周囲が隠し、マスコミも忖度するだろうが、こうなると村山の陰の発言がマスコミにもれ、面白おかしく記事になっていく。
 しかも、一番の“スピーカー”が金田ヘッドだ。報道陣の前で、
「監督がこう言ったらしい。いったいどっちが本当の話なんや」
 と言ってため息をつく。「村山のわがまま」の印象はどうしたってついていくだろう。

 状況によっていかようにも取れる言葉をどう切り取るかは、まさにマスコミのさじ加減である。金田ヘッドがうまくマスコミを使ったのか、あるいはさほど悪意のない愚痴をマスコミが膨らませてしまったのかは分からない。

 では、また月曜に。

<次回に続く>

写真=BBM
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