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センバツ2021

創部5年で聖カタリナ全国へ導いた越智監督へ 早大時代の恩師・野村徹氏からの熱きメッセージ/センバツ2021

 

早大4年時には主将を務めて


聖カタリナ・越智良平監督は創部5年で甲子園へ導いた。東海大菅生との1回戦は3対4と、最後まで粘りある戦いを見せている


 聖カタリナ(愛媛)は春夏を通じ、初の甲子園出場だった。2016年に女子校から男女共学となり、創部5年で全国舞台。チーム誕生から率いるのが越智良平監督(40歳)である。

 東海大菅生(東京)との1回戦。早大時代の恩師・野村徹氏(84歳)は教え子のさい配を、甲子園の三塁スタンドから熱い眼差しで見守った。

「愛媛県は公立の伝統校、強豪私学もひしめく激戦区。(新興の私学で)就任当初は生徒を集めるのも大変であったと聞いています。難しい環境の中で、よく出場へとこぎつけました。『やっぱり、来たか!』が正直な気持ちです。越智はなかなか根性のある子。上甲さんに鍛えられていますからねえ(苦笑)」

 宇和島東では上甲正典監督(のち済美監督)の薫陶を受け、甲子園に3回出場。早大ではソフトバンク和田毅と同級生で、最終学年では主将を務めた。4年時には早大として、52年ぶりの春秋連覇を遂げているが、遊撃手の越智はベンチを温めることが多かった。春は2試合(試合中盤の三塁守備のみ)、秋は3試合(試合終盤の左翼守備で2試合、代打で1打席)。野村氏は当時、試合に出場する機会の少ない選手をなぜ、主将に指名したのか。

「1学年下に鳥谷(敬、現ロッテ)がいました。越智もアピールして、努力を重ねてきましたが3年間、先輩として、後輩が伸びる環境づくりをしてくれた。良い言葉をかけていた。なかなかできることではありません。そんな献身的な姿勢を見て、主将に決めました」

 2002年秋。慶大1回戦で勝利した早大は春秋連覇を決めている。最終戦になるかもしれない2回戦を前に、野村氏はベンチ入りメンバー選考にあたり、主将・越智ら幹部を呼んだ。

「最後なので、これまで神宮に立つ機会のなかった4年生を入れようと提案したんですが、越智は開口一番『来年以降のために使ってください!』と。これは強いわな! と。人間的な成長を確信したシーンでした(早大は慶大2回戦で連勝)。この考えは越智だけではなく、和田や4年生の総意であり、結果的にレールを敷いてくれました(早大は翌03年秋まで史上初のリーグ4連覇)。選手としての記録はないですが、とにかく存在感が大きかった」

 学生の立場で、俯瞰してチームを冷静に見られる。野村氏は指導者としての適性を感じていた。越智監督は早大卒業後、小松高で北信越大会に出場へ導くなど、石川県の公立高校で実績を重ね、聖カタリナの野球部創部に合わせ同校からオファーを受け、地元へ戻った。

「生徒に『よく頑張った!』と言うのは最後」


 1月29日。センバツ選考委員会で甲子園初出場が決まると、野村氏は祝福の電話を入れた。そこで話したのが、自らの経験談だった。

「近大付(大阪)で1988年、センバツに出場させていただきました。(13年ぶりで)もう、周辺は、お祭り騒ぎ。しかしながら、高校野球、3年生の集大成は夏なんです。グラウンドでの『卒業試験』まで、いかに充実した時間を過ごすか。センバツのためのチームづくりをしたら、夏は失敗する。他のライバル校は『夏一本』で挑んでくるわけですから、それ以上の取り組みが大切になってくる。誤解はしてほしくないですが、甲子園をうまく利用させてもらうことが必要なんです。勝ち負け以上に、勉強できる場。センバツに照準を合わせれば、かえってマイナスになることもある(近大付は88年夏も甲子園出場)。指導者は決して、手を緩めてはいけない。生徒に『よく頑張った!』と言うのは最後です」

 東海大菅生との1回戦はあと一歩及ばず、3対4で惜敗。初陣とは思えない、堂々とした戦いぶりが印象的だった。越智監督のきめ細やかなベンチワーク、指導力の賜物だ。春のセンバツ甲子園の位置づけ。指揮官自身も大会前から理解していた。

「センバツに合わせて調整をしていたら、夏に勝てないし、センバツもダメになる。合わせる、ということをした時点で成長曲線も変わってくる」(越智監督)

 このエピソードを野村氏に伝えると「センバツ出場した当時の私(51歳)と比べても、指導者として成長していますよ」と笑顔で語った。だが、どうしても伝えたいことがある。

「高校野球は学校教育の一環。教育者に、ゴールはありません。時代に合わせて、監督も指導方針を変えていかないといけません。そこで大事になるのは、生徒に考えさせること。ついつい何から何まで教え込みたくなるんですが、野球は対応力が求められるスポーツです。対応力の差が、強さになる。その差とは、人間力。野球は団体競技でありますが、一人で戦いができる男にならないと戦えない」

 そして、こう続けた。

「環境づくりが指導者の仕事。レギュラー以外の姿が、チームの底力になる。夏の大会が卒業試験であっても、高校生活はそこで終わりでなく、3月の卒業式までが教育なんです」

 昭和、平成の時代を率いた名将が、令和の指導者に残したメッセージ。越智監督は甲子園で得た多くの教材を故郷・愛媛へと持ち帰り、夏の最終テストに備えた猛勉強を再開する。

文=岡本朋祐 写真=石井愛子
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