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週べ60周年記念

ファンの熱狂が先行する阪神優勝ムードの周辺/週べ回顧1972年編

 

 3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

キャバクラ、アルサロでも野球結果を報告


阪神・田淵


 今回は『1972年9月18日号』。定価は100円。

 8月13日に首位に立った阪神。その後、5連敗もあって2位となったが、ズルズル落ちることなく、何とか踏みとどまって逆転のチャンスをうかがっていた。
 今回は、そんな時期の大阪の街の話だ。

 大阪の新興盛り場十三。この街のキャバレー、アルサロではショーの合間にプロ野球の状況を伝え(要は阪神戦と巨人戦)、阪神が勝つと、司会者がさも見てきたように試合内容を克明に説明。阪神球団歌をホールに流していた。

「阪神ファンでなければ野球通であらずみたいなムードになってきましたね。巨人なんてしょせん女、子どもがキャアキャア騒ぐ程度。その点、虎は……」
 と阪神ファンの真田さん。スポーツ新聞も関西版は勝っても負けても阪神が一面トップ。勝った翌朝など、駅売りは奪い合うになって完売続出だ。

 さらに街中で、どこからともなく聞こえるようになったのが、阪神の優勝実況。それも62、64年のものではない。いわゆる架空の優勝実況のレコードだった。

 聞いてみると、こんな内容だ。
 舞台は巨人、阪神が同率で迎えた最終戦、舞台は甲子園球場。巨人が3点リードし、阪神最後の攻撃、二死満塁で打者は田淵幸一となった。
「右のバッターボックスは田淵。ボールカウントはツーストライク、スリーボールとなりました。プレート上は堀内、キャッチャーは森。七万の大観衆は棒立ちとなりました。
 堀内、第6球のモーションに入ります。ふりかぶって投げました。打った、いい当たり。グーン、グーンとレフトに伸びています。入りました、ホームラン。満塁逆転サヨナラホームラン。阪神優勝、タイガース優勝」
 その後、大歓声とともに六甲おろしが続くというものだ。

 発売元はテイチクで、売上10万枚と大ヒット。吹き込んだのは朝日放送の中村鋭一アナウンサー、自身も大の阪神ファンだ。実際にはTG戦は、この年の最終戦ではなく、似た状況が訪れるのは、翌73年だ。
 中村アナは言う。

「作り話と分かっていても、ひょっとしたらこうなるのじゃないかと思って。泥臭い企画だけれども、巨人はチームもファンもキザ、キザ。その点、阪神ファンは泥臭くて、爽やかで、阪神もいいし、ファンもいいし」

 ただし、熱心な阪神ファンの逸話として書いてあるものを見ると、スナックで阪神をけなした客をバーテンが殴ったとか、甲子園で阪神をヤジった客を取り囲み、「顔貸せ」とすごんだとか、阪神をたたいた解説者を放送席で見つけると、これまた取り囲んで抗議するとか、あまり爽やかではない話が載っていた。

 では、またあした。
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