2001年にメジャー・デビューし、両リーグ通じて最多の242安打。その後3年連続で200安打をクリアしたものの、リーグ最多安打を2年間逸していた。そして4年目の04年へ。ハイライトを迎える。 崩れなかった安打量産ペース
2004年は、1920年にブラウンズ(現オリオールズ)のジョージ・シスラーが樹立したシーズン最多安打記録257を84年ぶりに更新した。
03年に3年契約を終え、シーズン終了後に4年総額4400万ドルの延長契約を結んで臨んだシーズン。4月は23試合で26安打の打率.255とスローなスタートを切った。だが4月末からエンジンがかかる。30日から5月18日まで16試合連続安打。うち12試合がマルチ安打だった。無安打1試合を挟んで20日のオリオールズ戦と21日のタイガース戦で2試合連続猛打賞。21日の2安打目は日米通算2000安打だった。30歳6カ月での到達。日米通算を含めた日本の2000安打達成者の中で、
榎本喜八(東京)の30歳7カ月を更新して最年少であった。
5月は50安打。01年8月の51安打に次ぐ数字。6月は29安打と落ちたものの7月は51安打。そして8月は56安打を放って月間MVP。8月18日のロイヤルズ戦では第2打席で頭部に死球を受けて交代したが、休日を挟んだ20日のタイガース戦には出場して3安打をマーク。安打量産のペースは崩れなかった。
9月も5安打の固め打ち2度など快調に安打を重ね、30日の敵地でのアスレチックス戦で1安打を放ってシスラーの記録まであと1安打とした。そして迎えた10月1日、本拠地でのレンジャーズ戦。マリナーズは地区最下位に沈んでいたが4万人の観客が集まった。1回、ワンバウンドで三塁手の頭上を越えて左前に運んで記録に並ぶ。スタンドからのスタンディングオベーションに、イチローはヘルメットを取って応えた。
3回の第2打席。フルカウントから中前へゴロで弾き返して新記録を達成。花火と大歓声の中、マリナーズの監督、コーチ、選手らがダッグアウトから飛び出し、イチローの肩を抱いて祝福した。
試合後の会見でイチローは、94年に
オリックスで記録した210安打は「怖さを知らず、自分の力よりも大きなものが働いた」とし「今回はいろいろな怖さを知って、それを乗り越えて、自分の技術を確立して残した数字だから、僕にとって重みがまったく違うもの」と話した。しっかり手応えを感じた新記録に胸を張った。
『週刊ベースボール』2021年3月1日号(2月10日発売)より
文=樋口浩一 写真=Getty Images