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伊原春樹コラム

東京ドームの天井のせいで…日本ハムと言えば思い出すのは西崎幸広の“消えたノーヒットノーラン”/伊原春樹コラム

 

月刊誌『ベースボールマガジン』で連載している伊原春樹氏の球界回顧録。2021年2月号では日本ハムファイターズに関してつづってもらった。

しなやかな腕の振りの好投手


95年7月5日の日本ハム戦(東京ドーム)でノーヒットノーランを達成した西崎


 今回のベースボールマガジンは「後楽園ファイターズ」の特集ということだが、私も日本ハムファイターズに関して印象深いことを書き進めていこうと思う。西武黄金時代にコーチとして対戦していたが、個性の強い選手はいたが、正直言って、チームとしてはあまり強さを感じられなかった。

 例えば森祗晶監督時代の1993、94年、大沢啓二監督が2度目の監督としてチームを率いていたが、「西武はバントばかりして、一つも面白くねえ」と批判してきたことがある。当時の西武は投手陣が盤石。1点でも先制すれば、それを守り切る力は十分にあった。だから、初回から先頭打者が塁に出れば、二番は絶対に送りバント。得点圏に走者を進めれば強力なクリーンアップが控えているから、得点を奪う可能性は格段に上がる。その攻撃パターンを少しでも崩したいと挑発してきたのだろう。しかし、森監督はまったく動じなかった。「勝てばいいんだ」と自らの信念を貫く。私も言葉は悪いが、負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。

 と思っていたら93年、日本ハムは西武に続いて2位となっている。両者の対戦成績は13勝12敗1分け。翌年も西武はパ・リーグの頂点に立ったが、日本ハムは最下位。それでも西武は日本ハムに15勝10敗1分けとそこまでカモにしていなかったようだ。

 確かに当時、日本ハムは投手陣がそろっていたような印象がある。93年でいえば西崎幸広が11勝、武田一浩白井康勝が10勝を挙げている。西崎は体の線は細いが、しなやかな腕の振りからキレのあるストレートやスライダーを投じてきた。今で言えば岸孝之(楽天)のようなタイプだった。93年、西崎は西武相手に6試合に投げ、4完投。2勝3敗ながら防御率は2.93だったというから、簡単に点を取れる投手ではなかった。

平凡なセンターフライが……


 そういえば西崎で覚えている試合が1つある。東京ドームで行われた1995年4月22日の試合だ。この日は14時開始のデーゲームだったが、西武打線は先発した西崎の前に7回を終わって四球2つのみ。残り2回で安打を打てなければノーヒットノーランの屈辱を味わってしまうところだった。そして迎えた8回だ。先頭のデストラーデがセンターへ平凡なフライを打ち上げた。しかし、中堅手の大貝恭史が打球を見失い三塁打。西崎のノーヒットノーランは夢と消えてしまった。それどころか西崎は続く鈴木健を歩かせ、垣内哲也に同点3ランを浴び、勝利まで逃してしまったのだ。

 巨人とともに日本ハムが本拠地としていた東京ドームの天井は白く、非常に打球が見づらい。特にできた当初は今のように年月が経って黒ずんでいるようなこともなく、本当に真っ白で白球が消えてしまうから厄介だった。私も「どうにかしてくれ」と改善を求めていたのだが、まったく動いてくれない。特に巨人と違って、日本ハムは土、日にデーゲームが多い。ナイターよりも、天井が明るくなり、余計に打球が見づらくなる。ただ、セ・リーグで本拠地としている巨人はナイターばかり。もし、巨人がデーゲームでプレーして、打球の見づらさを訴えていたら、当時から多少は改善されていったのではないかと思う。

 とにかく、不測の事態が起きがちなため、対策もいろいろ考えた。私が選手に指示したのはフライを見失ったら、いつまでも追いかけるのではなく、しゃがんでしまえ、ということだ。例えば中堅手がそうやって“ギブアップ”の意思表示を示したら、右翼手か左翼手がカバーする。それくらいしか対策法は思いつかなった。

 西崎に話を戻すと、同年7月5日、西武は西崎にノーヒットノーランを食らってしまう。西崎にとっては“リベンジ”だ。投球数119、被安打0、与四球1、内野ゴロ8、内野飛球1、外野飛球6、奪三振12の堂々たる投球内容。12奪三振は71年の鈴木啓示(近鉄)と並ぶノーヒッターの最多記録だったという。そういった意味でも、やはりいい投手だった。

強肩の羽生田が右飛を落球して…


強肩、堅守の羽生田だったが……


 日本ハムが後楽園球場を本拠地にしていた時代だが、「打球を捕れなかった」というプレーで思い出す試合があった。87年5月6日の一戦だ。西武先発の東尾修が好投して、3対2と1点リードで迎えた9回裏だ。ライトには強肩で鳴らした羽生田忠之が守備固めで入っていた。二死一塁となり、田村藤夫がライトへ飛球を打ち上げた。ライト線へ徐々に切れていく打球で、羽生田も横に動きながら追った。とはいえ、イージーなフライで誰もが「ゲームセットだ!」と思ったが、羽生田が打球をグラブに当てながら落としてしまった。東尾もマウンド上で「エッ」というビックリした表情を浮かべたが、そこからがまた“二転三転”とする展開となった。

 一走の及川美喜男は三塁を回ってホームへ。羽生田は落とした打球をすぐさま拾って、捕手の伊東勤にめがけてものすごい返球をした。まさにレーザービーム。ダイレクトで伊東のミットに収まって、すぐに走者にタッチした。完全にアウトのタイミングだったが、走者とミットがぶつかってボールがミットからこぼれてしまう。同点のホーム。いくら百戦錬磨の東尾といえど、動揺を抑えることができなかったのだろう。最後は高代慎也(延博)にサヨナラ打を浴びて敗戦投手となってしまった。

写真=BBM
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