開幕から12試合すべてで圧巻の投球を続けているデグロム。大谷の試合だけでなく、彼の投球にも注目してもらいたい、それだけの存在だ
大谷翔平の二刀流もすごいが、それに匹敵するほどメッツのジェイコブ・デグロムのピッチングには目を見張らされる。6月21日のブレーブス戦、初回から先頭のアクーニャに100マイル(約160キロ)の直球を続けて追い込み、外角高め101マイル(約162キロ)の直球で空振り三振。二番フリーマンにも2球連続100マイルで左飛。アルビーズには99マイル(約158キロ)の内角直球でストライクを取った後、93(約149キロ)、91マイル(約146キロ)のスライダーで、連続空振りで三振。8球で片付けた。
今季、彼は全投球の60.8%が直球で、平均球速99.2マイル。29.1%が平均91.5マイルのスライダーで空振り率は驚異の58.4%、被打率.072。9.8%は91.3マイルのチェンジアップで空振り率47.8%である。
基本、直球とスライダーだけで打者を牛耳る。12試合を終え、防御率0.50。1968年、カージナルスの
ボブ・ギブソンが作ったシーズン1.12の記録を破るのではと注目されている。プラス、ユニークなのは12試合連続で自責点は1か0で合計「4」。一方で自分のバットではじき出した打点は「6」。MLBでは1920年から打点を記録するようになったが、投手が12試合を投げた時点で、自責点よりも多い打点を稼いだのは102年目で初めてのことだ。
さらに9回あたりの三振率は14.6個だが、6月11日のパドレス戦での今季100奪三振到達は、61.2イニングと史上最速だった。バッテリーを組むマッキャン捕手は「投げているボールがすごいのはもちろんだが、スローモーション用のカメラが頭の中に入っているかのように、自分のメカニックを把握している。リリースポイントがおかしいと気づけばたった1球でアジャストできる」と説明している。
さらに信じられないのは28歳から33歳の今年まで年々直球の平均速度が上がっていること。16年93.4マイル、17年95.2マイル、18年96マイル、19年96.9マイル、20年98.6マイル、21年99.2マイルである。193cm、81kgでスリムな体型で、ゴムのように体が柔らかい。
大学時代は主に遊撃手で登板過多でないのも良いのかもしれない。大概の投手が峠を超し投球スタイルを変えざるをえなくなる年齢で、パワーピッチャーとしてレベルを上げ続けている。言うまでもないが1968年と2021年では野球が違う。ギブソンはその年34試合に登板し、28試合が完投、イニング数は304回2/3。デグロムは12 試合で1完投、今季のイニング数は200にも届かないだろう。
一方で68年は1試合平均の本塁打数は0.61本だったが、21年は1.17本。今のほうがずっと本塁打が出やすい。平均防御率は68年が2.98、21年は4.11である。ゆえに数字で並んだとしてもどちらが上は一概に言えない。
ただ私たちは少なくとも今年のデグロムのピッチングを現在進行形で体験できる。ここまでWHIPは0.51、被打率は.113、圧巻のピッチングを1試合でも多く見てもらいたい。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images