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元東大野球部員が率いた筑波大附高。「任された期間は母校のために」全力を尽くす

 

都内でトップレベルの国立の進学校


昨年11月から筑波大附高を指揮する和気正純監督は同校OBで、昨秋まで東大野球部に在籍した


 1対7の7回裏一死三塁。筑波大附高は1失点すれば、大会規定の7点差により、コールドゲームという瀬戸際にいた。この場面、後続2人を抑えて窮地をしのぐが、8回裏には二死二塁と再びピンチを迎えた。広尾高の四番打者がファウルグラウンドへ打ち上げた飛球を、筑波大附高の正捕手・河瀬一慧(2年)は体ごと抱えるようにキャッチ。決死のプレーでボールを落とさず、9回表の攻撃に望みをつないだ。しかし、筑波大附高は力及ばず1対7で、東東京大会3回戦(7月17日)で敗退した。

 筑波大附高は学校創立1872年、野球部創部は1900年という伝統校である。前身の東京高等師範学校附属中学校時代には、46年夏の全国中等学校優勝野球大会に出場して4強進出。当時、甲子園球場はアメリカ軍に接収されており、試合会場は西宮球場だった。同夏以降、春夏を通じて甲子園出場はない。

 同校は2021年、東大に29人の合格者を出すなど、東京都内でトップレベルの国立の進学校として知られている。

 今夏は東東京大会2回戦で荒川工高に勝利(4対1)。夏の選手権大会は3年ぶりの白星であった。4回戦に進出した2011年以来の「2勝」を目指した広尾高との3回戦も、和気正純監督は「3つ勝って(5回戦で第2シードの)二松学舎大付高と対戦したい」と、さらに上を見ていた。

 和気監督は昨秋まで東大野球部に在籍した。筑波大附高では3年夏の東東京大会1回戦敗退(四番・左翼)。東大を志望したのは、遠藤良平氏(現日本ハムGM補佐)から誘われたのがきっかけだ。遠藤氏は同校OBで、東大では東京六大学リーグ通算8勝を挙げ、日本ハムでプレー。先輩から大学野球の魅力を聞き、神宮へのあこがれが芽生えたという。

「私にとって、恩人のような方です。遠藤さんと話をさせていただく中で、東大で野球をやることを決めました」

 1年間の浪人を経て、赤門をたたいた。170センチ80キロの体格を生かした右のパワーヒッター(一塁手)として、2年春のフレッシュリーグ、同秋のフレッシュトーナメントに出場も、リーグ戦の舞台は難しかった。4年秋、最後の2カ月は学生コーチとして、裏方に回った。同秋のシーズンが終わると、筑波大附高から監督就任の要請が入った。

 昨年11月からチームを率いた。4月からは東大大学院で海洋シミュレーションを研究する傍らで週4回、母校で後輩を指導。就任前の秋、筑波大附高は一次予選の初戦で敗退している。新型コロナ禍で春の一次予選は中止。今夏、公式戦初さい配で白星を飾ったのだ。

影響力を与える「恩人」として


筑波大附高の2年生左腕・近藤克哉は広尾高との東東京大会3回戦で2番手として5回1/3を無失点に抑え、チームに流れを作った


 広尾高との3回戦は先発9人中7人が2年生という若い布陣で臨んだ。とはいえ、チームを結束させたのは、最上級生だったという。

「主将・松本(松本奏流)も出場機会が少なくても、あきらめずに頑張ってくれた。最後は(ベンチ入り5人の)3年生全員が出られたので良かった。ふだんから取り組んでいる100パーセントのプレーを出し、できないようなプレーも出た。気持ちが入っていました」(和気監督)

 初回に4失点。1回裏の途中から救援したサウスポー・近藤克哉(2年)は5回1/3を無失点に抑え、悪い流れを断ち切った。7回表には意地の1点を返している。近藤は荒川工高との2回戦でも2番手で4回無失点。70キロ台後半から80キロ台前半の超スローカーブを巧みに使い、110キロの真っすぐでタイミングを外す投球術が光った。公式戦で手応えを得た170センチ左腕は「守備を固めて、打たせて取る投球を続ける。打線は1本の安打で1点が取れるように、足を使った手堅い攻撃をしていきたいです」と前を向いた。

 和気監督は「(大学院にいる)あと1年はやりますが、社会人になると難しい」と、今後の見通しを語った。もちろん、任された期間は母校のために、全力を注ぐ。近藤は年齢が近い兄貴分的な和気監督へ、思いがあるという。

「ふだんはあまり注意をしたりはしませんが、要所ではビシッと言ってくれる。チームの雰囲気が悪くなったときも、ベンチを盛り上げてくれる。この人のために、となります」

 近藤は「できるなら、やりたい。(学業と部活の)両立を頑張っていきます」と、高校卒業後の東大でのプレーを目指している。和気監督も後輩に影響力を与える「恩人」となっており、秋以降もチーム強化に当たっていく。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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