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2021夏の甲子園

2年生とは思えない落胆。阿南光・森山暁生は“一生に一度の2年夏”を来夏につなげる【2021夏の甲子園】

 

監督と3年生の最後の夏


阿南光の2年生左腕・森山暁生は自身初の甲子園で、貴重な経験を積んだ


■8月16日 1回戦
沖縄尚学8−0阿南光

 今大会49代表校中、地方大会を一人で投げ抜いたエースは高川学園(山口)の左腕・河野颯(3年)と阿南光(徳島)の左腕・森山暁生(2年)の2人だ。

 高川学園・河野は小松大谷(石川)との1回戦を6失点完投勝利(7対6)で、2回戦に進出した。一方、阿南光・森山も沖縄尚学との1回戦で、最後までマウンドを譲らなかった。179球の力投を見せるも、沖縄尚学打線に13安打を浴び8失点(0対8)で、無念の初戦敗退となった。

 試合後のオンライン会見。マスク越しからも、相当な悔しさが伝わってきた。先がある2年生とは思えないほどの、落胆ぶりである。試合の感想について問われると、こう答えた。

「もう……」と話し、しばらくの沈黙の後、森山は言葉を振り絞った。「申し訳ない気持ちがありつつ、悔しい。これまでに味わったことのない、言葉では言い表せない感情です」。

 2年生エース。森山は「あと、1年ある」という見られ方を、好まなかった。

「次、と言われますが、高校2年の夏は人生に一度しかないので……。高校3年の夏も一度しかないですが、ここに戻ってきて、次こそは1勝をできるように頑張っていきたい」

 今年にかけていた理由。中山寿人監督と3年生にとって、最後の夏だったからである。

「(中山監督には)中学3年のころに、自分のピッチングを見ていただいたり、光高校に入ってからも、熱心に教えてくださり、一生をかけても返し切れないほどの恩があります。中山監督と3年生の夏を終わらせてしまって、本当に悔しい」

 中山監督は本年度限りで定年退職となるため、高校野球の指揮官として、集大成の夏だった。阿南光は2018年4月、新野と阿南工が統合して開校。中山監督は新野で1回、徳島商で5回の甲子園出場へ導いた実績がある。

 現在の3年生は6人。彼らが高校入学時は「甲子園」を想像できるレベルにもなかったというが、地道に努力した。現2年生との融合により、25年ぶり2回目(新野時代の96年夏を含む)の甲子園出場を勝ち取ったのである。

 森山は少人数で活動し、苦労していた当時を知るからこそ「最後の3年生」への思いが強かった。徳島大会では「先輩への恩返し」も原動力の一つとなり4試合、36イニングを一人で投げ、県頂点へと導いたのである。

甲子園独特のムードに……


 中山監督は「アクシデントがない限り、どういう展開になっても、最後まで投げさせようと思っていました」と、甲子園でも森山と心中することを決めていた。

 試合前のブルペンでの調子は良かった。しかし、いざ、ゲームに入ると、甲子園独特のムードにのみこまれてしまう。初めての大舞台で多くの高校球児が経験する「洗礼」を浴びたのだ。夏の甲子園は1日4試合。とにかく、スピーディーな行動が求められる。

「流れの早さについていくことができずに、向こうの流れに引き込まれてしまって……。その中でも『自分の投球をする』と、言い聞かせていたんですが……。どんどん試合が進んでいって、徳島大会でも味わうことができなかったこと。少しでも甘いコースに行けば、打たれる。どの打者も、スキがなかった」

 5回終了時点で114球。「下手したら200球に到達するんじゃないか、と。どんな形でも自分が投げ切るつもりでした」。

 高めに浮いたボールを、沖縄尚学打線は見逃さない。中山監督は「低めに投げられれば、もっと抑えられた。悔いが残る。緩急のある真っすぐ、カーブが使えたら良かったですが……。雨で(3日間)流れて、調整が難しかった部分はある」と明かした。昨年来、新型コロナ禍で県外への遠征ができず、現チームで宿泊を伴うのは、今回の甲子園が初めて。本来は県外強豪校との練習試合を通じて、全国レベルを知るのだが、それもできなかった。

 森山は8回、179球を投げ抜いた。「疲労? 全然、感じませんでした。取られても1イニング1点、最高で無失点とするべきところを、成し遂げたかったです」。とはいえ、潜在能力の一端は見せた。182センチの長身から投げ下ろす最速140キロ超のボールには角度があり、ツーシーム、カットボールと変化球もキレの良さを見せた。

「1球1球が、自分が向上するための1球になった。良かった点、悪かった点を洗い出して、課題を克服すれば、もっと良い投手になれる」。中山監督は今後に、期待を寄せる。

 森山は最後にこの言葉を繰り返した。

「高校2年の夏は戻ってこないので、そこは悔いが残りますが、一生に一度しかない高校2年夏を、一生に一度しかない高校3年の夏につなげていけたらいいです」

 1日も無駄にしない。森山は甲子園でしか経験できない屈辱を胸に、徳島で鍛錬を続ける。

文=岡本朋祐 写真=石井愛子
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