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2021夏の甲子園

無念の降雨コールド。選手に寄り添う最大限の配慮が見られた審判員【2021夏の甲子園】

 

球児と一緒にゲームを組み立てる


大阪桐蔭−東海大菅生の1回戦(8月17日)は、8回表一死一、二塁で降雨コールドゲームとなった。球審の山口智久審判委員は、試合終了をコールする前に両校主将へ説明した


■8月17日 1回戦
大阪桐蔭7−4東海大菅生
 ※8回表、降雨コールド

 イニング間のたび、守備に入るチームのベンチ前へ歩み寄って、選手たちを鼓舞する。

「さあ、行こう!!」

 球審を務めた山口智久審判委員の甲高い声は、無観客(入場は学校関係者、主催者が認めた関係者のみ)のスタンドに一層、響き渡った。

 第5日の第1試合(8月17日、大阪桐蔭−東海大菅生)は午前7時59分の試合開始前から雨が降り注いでいた。この日は4試合。その後も、天候不良が予想されていた。

 雨天に限らず、甲子園は通常の大会以上に「スピードアップ」が求められる。説明するまでもなく、会場は甲子園球場のみ。今大会は第5日を迎えるまでに、すでに4日間順延。大会主催者は、決勝まで全48試合を消化する上で、日程調整に苦慮していた。

「さあ! 準備して!」

 山口審判委員にはいつも以上に、試合進行を早めたい意図があったのは確か。だが、あくまでも「現場目線」。急かしているのも、まったく、不快さを感じない。球児と一緒にゲームを組み立てているという、温かみがあった。

 山口審判委員は大宮南高、明大でプレー。東京六大学リーグでは19年の実績があり、社会人の都市対抗などで活躍し、国際審判員としても、多くのキャリアを積み重ねている。

 大阪桐蔭と東海大菅生との試合に話を戻す。激しい雨の中でも、イニング間には土を入れるなど、何とか試合を成立させようと努力したが、8回表、東海大菅生の攻撃中に中断。32分待ったが、天候の回復が見込めないと判断され、降雨コールドゲームとなった。

 山口審判委員は試合終了のコールをする前に、本塁付近で大阪桐蔭の主将・池田陵真(3年)と東海大菅生・榮塁唯(3年)に経過を説明。労いの言葉をかけるその表情には、選手に寄り添う最大限の配慮が見られた。2人の主将がお互いのベンチへ引き揚げると、ゲームセットと右手を大きく上げた。最後にグラウンド、ネット裏に向かって深々と一礼。

 ここでは山口審判委員を紹介したが、この甲子園大会に関わるすべてのアンパイアは情熱をかけ、高校球児のために全身全霊をかけてジャッジしている。言うまでもなく、野球は審判員なくして成立しない。今夏はコロナ禍の難しい大会運営でもあり、プレーヤーはよりリスペクトの心を持つことが必要だ。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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