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2021夏の甲子園

相手校があって初めて試合が成立する…高松商対作新学院の対決は見応え十分の好ゲーム【2021夏の甲子園】

 

大会前に新型コロナ陽性者


作新学院は高松商との2回戦(8月19日)で持ち味の粘りを発揮も、7対10で惜敗。主将・田代健介は学校関係者が応援してくれた一塁スタンドにあいさつした。その表情はさわやかだった


■8月19日 2回戦
高松商10−7作新学院

 8月18日の夕方、大会本部から広報連絡メールが届いた。件名は「作新学院のPCR検査結果について」である。すぐに、受信メールを開くことができなかった。

 17日の15時に宮崎商(宮崎)、19時40分からは東北学院(宮城)に関するオンライン会見が開かれ、新型コロナウイルスに感染による「出場辞退」が発表された。

 果たして、作新学院は出場できるのか。恐る恐る受信メールの中身を確認。ホッとした。

 作新学院(栃木)は8月1日、主催者が実施した大会前検査(PCR検査)の前に、部員1人から陽性が確認された。保健所は同校野球部に「濃厚接触者なし」とした。2日に指定宿舎へ入る予定であった32人の検体を、検査機関へ送付。この大会前検査の結果、3日に部員2人の陽性が確認された。4日に保健所はあらためて32人にPCR検査を行い、陽性者以外の30人が、あらためて陰性と確認。保健所は「濃厚接触者なし」とした(陽性となった3人は無症状で自宅待機)。4日、主催者はここまでの経緯を踏まえ、緊急対策本部を開催し「集団感染」でなく「個別感染」と判断した。

 つまり、大会参加が認められたわけだが、6日に宿舎入り後も、複数回のPCR検査を実施し、指導者と部員の健康観察を継続した。10日の開会式には部員2人が体調不良で欠席し、その後の情勢も気になるところだった。

 そして18日夕方、大会本部からの広報連絡メールである。「大会前に新型コロナウイルス陽性者が出た作新学院について、チーム関係者を対象に17日までに試合前のPCR検査を行い、全員が陰性でした」。本来の初戦(2回戦、対高松商)は14日。順延により待たされたが、甲子園での試合がようやく実現する。

 作新学院は出場49校で今大会最長となる10大会連続16回目の出場。8月19日の第4試合(15時30分開始予定)に組まれていたが、天候不良により、第1試合がノーゲーム、第2試合が順延となり、第3試合は15時開始(予定は13時開始)。第4試合は待たされる形となり、17時19分にプレーボールされた。

 2回表、作新学院の攻撃前に「作新の風 吹きおこる われらが愛の 学院に」とお馴染みの校歌が流れた。心の底から甲子園で戦うことができて良かった、と感じた。

「心に残るような試合ができた」


 試合は高松商が序盤から優位に進めるも、作新学院も持ち味の粘りを発揮。高松商・長尾健司監督は追われる展開が「苦しかった」と振り返った。選手たちには「このままでは終わらないぞ」と発破をかけ続けた。作新学院は3点を追う8回表に6対6と追いつくも、その裏、高松商は4点を勝ち越し。しかし、作新学院も9回表二死走者なしから1点を返した。最後の最後まで手に汗握る攻防だった。

 2011年から10大会連続で夏の甲子園へ導いた作新学院・小針崇宏監督は言った。

「この大会を開催していただいたことに感謝したい。心に残るような試合ができた」

 春、夏の全国大会で優勝経験のある両校。名門校同士のプライドがぶつかり合い、見応え十分だった。2時間28分に及ぶ激闘を終え、試合後のあいさつでは、敗退した作新学院にも全力で戦い抜いた、達成感ある表情が見えた。新型コロナウイルスの感染者が確認されてから、この夢舞台に立つまでの19日、大変な苦労があったのは想像に難くない。

 今大会、宮崎商と東北学院の出場辞退により、智弁和歌山と松商学園(長野)が不戦勝により、3回戦に進出している。相手校があって初めて試合が成立する。当たり前の光景が、今大会は当たり前ではなくなった。高松商の試合後の表情も良かった。あいさつを終えた後は握手をせず、その距離はあっても、健闘をたたえ合う両校に心の距離はなかった。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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