3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。バックナンバーを抜粋し、紹介する連載を進行中。いろいろあってしばらく休載しましたが、今後は時々掲載します。 カネやん音頭でラッキーエイト
今回は『1973年5月28日号』。定価は100円。
1973年、パ・リーグが前後期制を取り入れた。
ほとんどのチームの監督は「大事なのはスタートダッシュ。トーナメントのような戦いになる」と予想した。ただ一人、南海・
野村克也監督を除けばだが、その話はまたいずれ。
スタートダッシュの重要性を一番口に出していたのが、
ロッテの新監督・
金田正一。4月は、まさかの開幕4連敗を喫するも、そのあと10連勝で10勝5敗と順調なスタートを切ったが、そのキーマンが大車輪で登板していた
木樽正明だ。
4月28、29日とリリーフで連投、しかも29日は3イニング投げているが、中1日の5月1日には先発完投、さらに4日からリリーフで3連投。4勝0敗、セーブポイントは3と内容もよかった。
71年には24勝で最多勝に輝いた木樽だが、腰に爆弾があり、酷使では、の声もあった。
1日の試合の前には金田監督にこう言われたという。
「試合当日、グラウンドに来て先発と言われたんですが、“犠牲になってくれ、頼む”とね。チームは白星を重ねていたけど、投手の回転は苦しかった。それを楽にしたいために監督がとった処置でしょう。僕もそれを理解していたし、何も考えず投げた」
腰は「いつも鈍痛がある」(木樽)状態。あとは肩もおかしく、
「これ以上無理をするとオーバーヒートしてしまうかもしれない」
とも話していた。
金田監督は、
「投げ過ぎは分かっている。うん、休ませるようにする。けどなあ、ついベンチにいると頼りにしてしまうんや」
と少し顔をしかめる。
金田監督らしくない、という声も多かった。
実際、金田監督は選手の体に細心の注意を払い、グラウンドにボールが落ちているだけで、
「選手が踏んで捻挫したらどないするんや!」
と大激怒するほどだった。
評論家は金田監督が是が非でも前期優勝を狙い、故障を抱え、フルシーズン投げ抜くのが難しい木樽を前期のみと考えて投入しているのでは、とも言っていた。
ただ、さすがカネやん、いざグラウンドに立てば、とにかく明るい。
「お客さんを退屈させたらあかん」
が口癖で、ゲームが膠着すると、コーチスボックスからスタンドに体を向け、両手を広げてチャチャチャと音頭を取り、拍手をうながす。
応援団長の松本さんも
「ゲームでたとえ負けていてもスタンドのお客さんを喜ばすツボは心得ている。太っ腹でなくてはとてもできない芸当です」
と感心していた。
さらに8回の攻撃になると、
「さあ、ラッキーエイト。一挙に点を取りましょう」
とお客さんに言い、また大拍手。当時はラッキーセブンとは言わなかったのだろうか。
週べのバックナンバーが閲覧できる『デジ放題』もできたので、ちょうどいい潮時かと思いましたが、何人かの方から「再開を」とご意見いただき、週一程度で緩くリスタートさせていただきます。
では、また。
<次回に続く>
写真=BBM