3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。バックナンバーを抜粋し、紹介する連載を進行中。いろいろあってしばらく休載しましたが、今後は時々掲載します。 王貞治は大きく出遅れる
今回は『1973年6月4日号』。定価は100円。
新怪物君こと、阪神・田淵幸一が打ちまくっていた。
話題になっていたのが人間離れした飛距離だ。従来のホームランバッターとはスケールが違うとも言われた。
シーズン23試合目の5月16日、
中日戦(中日)では左腕の
松本幸行の内角低めへのスライダーを左翼ポール直撃の14号ホームラン。
「まったく信じられない。確実にポールを切れてホームランになると思ったんだが」
と松本も舌を巻く。確かに前年までは同じようなコースを引っ張ってのファウルが多かった。
実は、
藤井勇コーチは開幕前、「ひょっとしたら、今年のブチはいくかもしれんで」と言っていた。
「あれのバッティングをよく見てくれ。昨年まで左に大きく切れたファウルがほとんどないだろ。内角いっぱいの球を今年はちゃんとボールの内側に入れている。この分だけホームランは増えるはずだ」
田淵本人は、「今年は本当に軽くバットを振っている。力を抜けば抜くほど打球は遠くに飛んでいくんだ」と話していた。
実は開幕から7試合ホームランはなく、打率も.115と低迷。しかしそこから状態を上げ、4月26日、5月9日、いずれも
巨人戦で1試合3本塁打。
16日時点では打率.321、14本塁打となっていた。
一方、ライバル
王貞治(巨人)はいまだ5号。不振が続く中、「考え過ぎではないか」と言われたが、王はきっぱり言う。
「僕が考え過ぎるって言うけど、一生かかっても僕は考え続けるでしょう」
では、また。
<次回に続く>
写真=BBM