夏場に入って止まった快音
巨人、
ヤクルトと熾烈な首位争いを繰り広げている阪神の課題は得点力だろう。9月15日のヤクルト戦(神宮)から6試合連続3得点以下と打線がつながらない。22日の
中日戦(バンテリン)でも投手陣が踏ん張ったが、1対2と敗れて首位の座をヤクルトに明け渡した。
そこで貧打解消の起爆剤として期待されるのが、23日に一軍昇格した佐藤輝明だ。黄金ルーキーの前半戦の活躍は、首位を快走するチームの象徴だった。日本人離れしたパワーで、阪神ファンのみならず野球ファンの心をつかんだ。4月9日の
DeNA戦(横浜)で
国吉佑樹(現
ロッテ)のスライダーに反応して横浜スタジアムの右中間に場外アーチを放つと、同月14日の
広島戦(甲子園)で
森下暢仁のカーブに泳ぎながらも右中間に運ぶ甲子園初アーチ。5月28日の
西武戦(メットライフ)では同点の9回に右中間最深部へ勝ち越しの13号決勝3ランを放つなど1試合3本塁打を記録する。セ・リーグ新人で、1958年の
長嶋茂雄(巨人)以来63年ぶりの快挙だった。チームに白星を運ぶだけでなく、印象に残る一撃が多かった。
だが、夏場に入ると快音が止まる。疲れもたまってきたのが影響しているかもしれない。7月は月間打率.227、1本塁打、4打点。8月に入って75年ぶりに新人左打者の本塁打記録を塗り替え、23本塁打まで伸ばすが、22日の中日戦(バンテリン)以降は自己ワーストを更新する35打席連続無安打とスランプに。スタメンを外れて代打でも結果が出ず、9月10日に登録抹消された。
矢野燿大監督が決断した佐藤の二軍降格は、識者の間でも見解が分かれた。現役時代に広島、巨人で活躍した野球評論家の
川口和久氏は「結果が出なかった最大の理由はボール球に手を出していることだ。現状では質の高い一軍の投手に対応できなかったと言われても仕方がない。阪神の先輩ホームランバッターで言えば、
ランディ・バースはボール球に決して手を出さなかった。疲労もたまっている時期だし、このまま一軍に置いてドツボにはまるより、二軍で体の疲れを取り、メンタルをリフレッシュという矢野監督の決断だろう」と理解を示した上で、「あとね、サトテルが今後、阪神を背負って立つ選手になるなら二軍を知るのも重要だと思う。どんな環境で、どんな選手たちが一軍を目指し、切磋琢磨しているのか。頂点も底辺も知ることで、自分がどういう位置にあり、何をしなきゃいけないかも分かってくるんじゃないかな」と二軍での経験が今後の佐藤の野球人生にも生きることを力説している。
一軍復帰戦で2三振
一方、球団OBで野球評論家の
岡田彰布氏は違った見解を示している。
「絶対に二軍に行かせてはならない。開幕から続いていた連続出場が途切れた。その上、二軍落ちとなれば、ホンマ、終わってしまうよ、彼は。こんなときだからこその起用法を考えていいのではないか。例えば9月7日のヤクルト戦(甲子園)。阪神は大量失点で完全な負け展開。この試合、佐藤輝に代わって糸井が先発で出ていたが、こんな負けゲームにずっと出続ける選手ではない。糸井のことを考え、さらに佐藤輝のことを考えれば、2打席でスイッチして、佐藤輝により多くの打席を与えるケースではなかったか。とにかく二軍に落とすことなく、現状打破へ、あらゆる方策をとってもらいたい」
一軍復帰戦となった23日の中日戦(バンテリン)でスタメン出場も2三振。リーグワーストの153三振とまだまだ粗く、確実性に課題があるが、ボールがバットに当たれば限りなく飛んでいく長距離砲としての魅力は唯一無二だ。阪神ファンからは「佐藤はいくら三振をしても使い続けてほしい。打線の中にいるだけで相手に与える恐怖感が違う」と常時出場を望む声が。シーズンは終盤に入り、1試合1試合の勝敗が大きな意味を持つ。矢野監督はどういう戦略を張り巡らせているか。佐藤の起用法が注目される。
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