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春夏初の甲子園へ。激戦区・神奈川で向上が快進撃を遂げた3つの理由

 

昨年6月、新練習場が完成


向上高は神奈川大会準決勝(9月25日、対桐光学園高)で1点差勝利(5対4)。秋は初の関東大会出場を決めた


 春夏を通じて初の甲子園出場へ、次のステージに駒を進めた。向上高は桐光学園高との神奈川大会準決勝(9月25日)を5対4で勝利。3点リードの9回に1点差に追い詰められたが、エース右腕・佐藤諒音(2年)が踏ん張った。センバツ選出の重要な資料となる、秋の関東大会出場は同校初(春は2回)である。

 向上高を率いる平田隆康監督は試合後、三塁ベンチで興奮気味に話した。

「本校にとって初めての関東大会なので……。まずは、明日(の決勝)。そこから考えます。私たちは、挑戦者。相手がどこであろうと、自分たちがやってきたことを出すだけです」

 快進撃を遂げた理由は、3つある。

 第一に挙げられるのは、環境面だ。昨年6月、新練習場(向上令和グラウンド、両翼95メートル、中堅120メートル)が完成。これまでは内野ほどのスペース(校庭)しかなかっただけに、待望の専用グラウンドで中身の濃いメニューを消化できる。「今大会も毎試合、メンバー(登録25人)を入れ替えていますが、競争が激しくなっています」(平田監督)。恵まれた施設を有効活用し、向上高校野球部のモットーである「一体感」を追求している。

 次なる勝因は「経験値」にある。

 エース・佐藤とバッテリーを組む四番・捕手の廣田翔馬(2年)、一番・中堅の主将・小野侑人(2年)と、旧チームから主力だった中心選手がチームをけん引している。今夏は横浜高との準々決勝で7回コールド敗退(3対11)。先輩たちが流した悔し涙が、原動力となっているのは言うまでもない。

「個々の力は、今夏の3年生の代のほうが上。2年生の代は一人ひとりの役割、やろうとしていることが明確です。主将の小野を中心に話し合い、できないことがあれば、厳しく指摘することもあります」(平田監督)

 練習でもセンターラインの3人が引っ張り、グラウンドはいつも活気づいているという。

「これまでも先輩に引っ張られて、下級生が活躍するんですが、自分たちの代になると、空回りする傾向にありました。この代の子たちは夏の経験を、うまく生かせています」

根付かせてきた約束事


 攻守走、ベンチワーク、スタンドの控え部員を含めて「個」ではなく「組織」で動く。2回戦から準々決勝まで4試合、一戦ごとに精度を上げてきた。そして、桐光学園高との準決勝は積み上げた取り組みを結集させた。

 3点リードで迎えた9回表の守りである。桐光学園高の押せ押せムードだったが、向上高が1点差で逃げ切れたのは、常日頃から根付かせてきた約束事にあった。3つ目の勝因を平田監督は明かす。

「あのままいくとは思っていませんでしたので、どこまで踏ん張れるか、と。よく頑張ってくれたと思います。9回トータルで考えるのではなく、常に初回、と言い続けてきました。先頭、初球を大事にする。初回の意識を持ち続けることができたのが良かったです」

 かつて平田監督はゲーム運びについて、こうも語っていた。

「27個のアウトを取り切るんだ! と。自分たちでできることの『徹底力』を突き詰める」

 県大会1回戦、決勝でもやることは変わらない。向上高としては、平常心で試合に入ることが、決勝のポイント。初の関東大会を良い形でつなげるためにも、内容のある展開へと持ち込み「県1位」をどん欲に狙っていく。

文=岡本朋祐 写真=矢野寿明
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