「持っているエンジンが違う」
11月6日のCSファーストステージ初戦の
楽天戦(ZOZOマリン)。負けられない試合で、ロッテの先発に抜擢されたのは高卒2年目の最速163キロ右腕・佐々木朗希だった。そして、その投球は異次元だった。直球はプロ入り後の実戦で最速となる159キロをマークし、球界を代表する強打者・
浅村栄斗を3打席連続三振に打ち取るなど、6回10奪三振1失点の快投。チームを勝利に導く快投で、ファイナルステージ進出につなげた。
メジャーのスカウトはこう分析する。
「持っているエンジンが違う。完成度は
オリックス・
山本由伸が球界No.1だが、直球の力強さ、スケールの大きさで言えば佐々木のほうが上回る。見逃せないのはプロ入り後も進化を続けていること。フォーク、スライダーの精度が良くなり、今年は登板を重ねるたびに制球もバラつきがなくなっている。高卒2年目の時点で言えばエンゼルス・
大谷翔平より上だと思う」
大船渡高3年時の2019年4月にU-18日本代表研修合宿で高校史上最速の163キロ計測。無限の可能性を秘めた右腕は
日本ハム、ロッテ、
西武、楽天の4球団からドラフト1位指名を受け、ロッテが当たりクジを引く。昨年は高卒ルーキーとしては異例の一軍帯同で肉体強化を図った。一、二軍通じて公式戦登板なしに終わり、「過保護すぎる」、「実戦で投げさせるべき」という声も聞かれた。
野球評論家の
張本勲氏は今年6月、週刊ベースボールのコラムで、周囲からの声にこう反論している。
「
阪神のルーキー・佐藤(輝明)もそうだが、佐々木もまた将来の日本プロ野球を背負っていく逸材だと思う。大事にし過ぎている、もっとどんどん投げさせるべきだという声も聞こえてくるが、私は反対だ。まだ高卒2年目ということもあり、佐々木の将来をよく考え、しっかりとプロとしての体づくりを優先し、経験を積ませているロッテの指導を褒めてやりたい。無理して肩を壊したら誰が責任をとってくれるのか。あれほど話題性のある投手だ。営業面のことを考えれば球団も佐々木を使いたいに違いないが、そこを我慢して大事に育てている」
「昔なら客寄せパンダ的な扱いで投げさせられていたに違いない。私がロッテのOBとして佐々木に注文をつけるとすれば、もっともっと走り込んで強い下半身をつくってもらいたいということだ。投げることも大事だが、とにかくランニングの量を増やしてもらいたい。走って損になることなど一つもない。必ずピッチングに生きるからだ」
想像以上のスピードで進化
2年目の今季。5月16日の西武戦(ZOZOマリン)で一軍デビュー登板を飾ると、中10日以上の間隔を空けて登板を重ねた。まばゆい才能もその出力に体が耐え切れず、故障するのが一番恐るべき事態だ。首脳陣も慎重に起用した。そして、優勝争いが佳境に入った10月に中6日で登板する。
スポーツ紙記者は佐々木の「ある変化」を口にする。
「下半身が明らかに太くなりましたね。入団した当時は線の細さを感じましたが、どっしりした体形になり、直球にも力感がある。対戦した打者に聞いたら、『速いのは分かっていたが思っていた以上に(球質が)重い』と驚いていました。スタミナもつき、マウンド上の振る舞いのも余裕を感じる。フィールディングなど勝つ投手になるためにまだまだ改善点はありますが、こちらの想像以上のスピードで進化している。160キロを出すのは時間の問題だと思いますし、来年はエースとして期待されます」
リーグ優勝を飾ったオリックスと対戦するファイナルステージでも登板機会が巡ってくるか。その投球が楽しみだ。
写真=BBM