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プロ入りはあきらめない――亜大野球の象徴的存在が闘病を乗り越えて歩む復帰への道

 

理想のスタイルを体現


亜大の4年生内野手・田中幹也は昨年、体調を崩し、約3カ月の入院。今春の復帰を目指し、地道なトレーニングを積んでいる


 亜大の伝統と言えば、自己犠牲の精神を徹底した、緻密な野球である。投手は低めにボールを集め、ムダな四球を出さず、最少失点に抑える。守りは堅実なプレーを徹底し、取れるアウトを確実に取る。打線は足と小技を使った機動力を前面に出し、一つでも先の塁を狙う。そして、何よりも目を引くのが、全力疾走。高校野球の各校が亜大を模範としており、グラウンドに練習見学へ来ることもある。

 50メートル走5秒9。遠投100メートル。鉄壁の守備力と、バットを短く持ち、コンパクトなスイングで、ダイヤモンドをにぎわせるのが田中幹也(4年・東海大菅生高)だ。野球をよく知っており、相手チームからすれば、最も出塁を許したくない好選手。高校時代は一番・遊撃手で、2年夏の甲子園で4強進出。亜大進学後は1年春から二塁のレギュラーを奪取し、生田勉監督が追い求めるスキのない理想のスタイルを体現してきた。

 2019年夏、生田監督が大学日本代表を指揮した日米大学選手権に、1年生ながら選出。堂々としたプレーを披露し、強烈なインパクトを残した。1年秋以降もアグレッシブな動きを見せ、3年春からは矢野雅哉(現広島)の後継者として遊撃手を任され、ベストナインを初受賞。亜大野球の象徴的存在であった。

 順調に成長していた田中に、異変が生じたのは3年夏だった。体調を崩して約1カ月の入院。秋のリーグ戦途中に復帰したものの、再び体調が悪化し、チームを離れた。約2カ月の入院で治療に専念し、12月上旬に退院した。

 2022年の新年始動となった1月7日からは、別メニューで調整を進めた。体に負担がかからない範囲で軽く15分間走った後は、ウォーキング。体重は10キロ落ちたが、退院後は4キロアップして61キロになり、食欲も増している。慎重に体調を見極めながらも、4月2日の春季リーグ戦に照準を合わせて、段階的に強度を上げる復帰プランを描いている。

「つらい思いをした分、野球を心の底から楽しみたい。結果を出して貢献していきたい」

 田中は卒業後の希望進路について「プロへ行きたい」と明言した。「野球選手ならば、誰もが思い描く夢。崩れなかった。仲間たちが支えてくれている。自分一人ではない感覚がある」。入院中は部員たちから寄せ書き、亜大・生田監督、東海大菅生高・若林弘泰監督からも「頑張れよ」と激励のメッセージが届いた。

「自分があきらめずに取り組んで、結果を残せば、病気で苦しんでいる人にも勇気を与えられると思います。頑張っていきたいです」

 好きな選手は亜大の先輩で、遊撃手として一時代を築いた井端弘和氏(元中日ほか)だ。「右打ち、守備の動きなど小、中、高とずっと動画を見てきました」。現役選手では広島・菊池涼介にあこがれる。166センチの小兵ながら、底知れぬ技術を秘めた一番・遊撃手の田中。復帰への道を一歩ずつ、着実に進んでいる。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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