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【大学野球】「打てなかったら仕方ない」 早大四番が見せた“なりふり構わず”執念の一打

 

教科書のような逆方向への打球


早大の四番・印出は法大1回戦の7回裏に1点差とする適時打を放った[写真=矢野寿明]


[東京六大学秋季リーグ戦]
10月14日(神宮)
早大4-2法大(早大1勝)

 なりふり構わず、執念の一打である。

 早大・小宮山悟監督は基本的に打順をいじらない。チームの顔である四番は、なおさらだ。

 昨秋までは蛭間拓哉(現西武)が務めたこの「指定席」を、今春から任されているのは印出太一(3年・中京大中京高)だ。春は全13試合で四番を務め、打率.255、1本塁打、4打点と必ずしも納得のいく数字ではなかった。

 今秋も開幕5試合で先発したが、3カード目の立大1回戦でスターティングメンバーから外れた。小宮山悟監督は「諸般の事情で」と語った。翌日の2回戦は四番・捕手で復帰し、チームは立大に連勝してV戦線に踏みとどまった。指揮官は「4年生の意見を聞いた上で出場させることにした」と明かしている。

 6試合で打率.238、3打点。「数字的にも足を引っ張っていた」。2020年秋以来のV奪還へ法大、慶大との残り2カード。攻守のカナメとして、このまま終わるわけにはいかない。

 法大1回戦は、劣勢の展開だった。7回表を終えて0対2。早大打線は法大の左腕・吉鶴翔瑛(3年・木更津総合高)に6回まで1安打と、ほぼ完全に封じ込められていた。

 7回裏、先頭の二番・尾瀬雄大(2年・帝京高)が中前にクリーンヒット。続く三番・熊田任洋(4年・東邦高)は初球をたたき、右翼線への二塁打。無死二、三塁で打席には四番・印出を迎えた。捨て身の作戦に出た。

 通常はグリップエンドまでバットを目いっぱい握るが、指2本分、短く持った。2ストライクからの3球目、教科書のような逆方向への打球。主砲の右前打で、1点差とした。次打者の空振り三振の後、中村将希(4年・鳥栖高)が印出のVTRを再現するかのような右前適時打で追いついた。さらに、押し出し死球で勝ち越し、内野ゴロで1点を加点。打者9人のビッグイニングで4得点を挙げた。

 右打者の左腕対策としての「お手本」を見せた、印出は言う。外角の変化球をたたいた。

「(吉鶴投手は)真っすぐに力がある。ストレートと変化球のコンビネーションで、力ずくでいってもダメ。短く持って右方向。それで打てなかったら仕方ない。シャープに、単打を狙った。たまたま、あそこに落ちてくれた」

 中京大中京高時代は主将、四番・捕手として名門校をけん引。中日高橋宏斗とバッテリーを組み、2年秋の明治神宮大会で初優勝した。早大では2年春から定位置をつかみ、経験値は申し分ない。「大型捕手」として期待されながら、悩ましい日々を過ごしているが、すべてを糧にするだけの器がある。自らのスタイルを崩してまで結果にこだわった一打が、打撃復調のきっかけになったに違いない。

文=岡本朋祐
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