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【社会人野球】悲願の社会人二大大会の頂点まであと一歩 Honda熊本が地力をつけた3つの要因

 

渡辺監督の人心掌握術


社会人野球日本選手権でHonda熊本は準優勝。2020年からチームを指揮する、渡辺監督のさい配力が光る[写真=佐藤真一]


 第48回社会人野球日本選手権は、大阪ガスの2大会ぶり3度目の優勝で幕を閉じた。

 35年ぶりの決勝で惜しくも初のダイヤモンド旗を逃したHonda熊本は、2021年の都市対抗で準優勝を遂げ、悲願の社会人二大大会の頂点まであと一歩。春先のJABA大会でも6大会連続で決勝トーナメント進出と、近年の躍進は目覚ましい。19年からHonda、Honda鈴鹿、Honda熊本の硬式野球部統括ゼネラルマネジャーを務める甲元訓氏(法大)による強化が年々、形となっている。甲元GMは相手の動きからも「変化」を実感するという。

「地力のある関東の企業チームからオープン戦の申し込みが殺到しており、九州遠征を組んできます。これまでになかったことです。全国のチームが熊本をマーク。これは、実力を認めていただいている証しだと思います」

 今大会、19年の都市対抗覇者・JFE東日本との1回戦を突破(6対4)すると、2回戦では今夏の都市対抗王者・トヨタ自動車の大会連覇と、3季連続優勝を阻止。力と力の勝負を、8対7で制した。さらに、準々決勝では昨夏の都市対抗王者・ENEOSを相手に左腕・横川楓薫(東海大)が完封(2対0)。西濃運輸との準決勝ではエース右腕・片山雄貴(駒大)が、8安打を浴びながらもシャットアウト勝利(3対0)を挙げた。粘投の真骨頂だった。大阪ガスとの決勝では両チームで計33安打の打撃戦に屈する(7対9)も、京セラドームでインパクトを残した。

 2年前の都市対抗準優勝と今回の社会人日本選手権準優勝は、同じ「全国2位」でも、中身は大きく異なる。甲元GMは冷静に語る。

「当時は、本格的に強化して3年目。勢いみたいな部分があったことは、否定できません。今回は対策をされながらも、結果を残した。力をつけてきたな、と実感しています」

 地力をつけた背景は何か。3つの要因がある。

 まずは、渡辺正健監督(明大)の人心掌握だ。08年から13年まで同社の監督を歴任し、退任後は社業に専念。20年に現場復帰すると、背広時代の経験がユニフォームで生きた。人を動かすマネジメント、企業の組織づくりと、野球部のチームづくりをリンクさせたのだ。

「選手をよく見て、適材適所に配置する。選手を生かすのがうまい。採用が機能しており、選手育成にも長けている。経験豊富であり、試合でのさい配、起用もうまくいっている。補強した選手を、しっかり仕込んでいます」

 次に、圧倒的な攻撃力。渡辺監督は2度目の就任以降、ウエートトレーニングに力を入れ、強力打線を編成してきた。一番・山本卓弥(亜大)、二番・中島準矢(筑波大)、三番・稲垣翔太(明豊高)、四番・古寺宏輝(関東学院大)の上位4人は、社会人屈指の破壊力がある。

「近年、社会人野球で実績を残しているトヨタ自動車さん、ENEOSさんを相手に、偶然で勝つことはできません。なぜ、勝機を見出すことができたのか……。打力の強さがあったからです。仮に点が入らなくても、相手の守りは、神経を使う。よくある話ですが、疲れるわけです。ENEOSさんには2対0で勝たせていただきましたが、得点だけでは語れない影響力があったと見ています」

見逃せない投手陣の頑張り


大阪ガスとの決勝では相手を上回る19安打を放ちながら、7対9で惜敗。この日の無念を糧に、2024年はあと一歩の壁を突破する[写真=佐藤真一]


 打力で主導権を握る背景には、投手陣の頑張りも見逃せない。しかも、Honda熊本には絶対的なエースがいる。入社8年目の片山だ。渡辺監督は全幅の信頼を寄せており、先発、抑えでフル回転。銅メダルを獲得した今年10月のアジア競技大会(中国・杭州)では初の侍ジャパン社会人代表入りを果たした。

 侍ジャパン社会人代表の投手コーチとして帯同していた甲元GMは「彼にとっては、すべてが刺激。佐竹投手(功年、トヨタ自動車)、田澤投手(純一、ENEOS)とキャリア豊富な投手からも多くを得た。自チームのエースが日の丸を背負った事実は、安心感につながる」と、相乗効果を語る。片山は今大会、5試合中4試合(救援3、先発1)に登板し、Honda熊本の顔、精神的支柱となっている。

 片山は駒大卒業後、Honda鈴鹿で2年プレーし、入社3年目にHonda熊本へ転籍してきた。トヨタ自動車との2回戦でソロ本塁打を放った石井元(明大)も、鈴鹿で4年プレーした後、熊本へ移り4年目。Hondaに3つある硬式野球部内での積極的な人事交流が、3チーム全体の活性化につなげている。

 頭脳明晰な指揮官の下、投打に軸がいるチームは大崩れしない。トーナメントの一発勝負においては、なおさらである。「熊本があのスタイルで勝ち上がったのは、社会人野球にとっても意味がある」(甲元GM)。機は熟した。もちろん、準優勝で満足できない。甲元GMは24年シーズンに向けた戦力整備に余念がなく、悲願の二大大会制覇に照準を合わせる。

 渡辺監督はかつてHonda熊本硬式野球部の存在意義について、こう言ったことがある。

「熊本は地域密着の野球部。人口3万5000人の大津町が、大都会の代表チームに勝つ。僕らにしか分からない快感です。義理と人情、夢とロマンの町。明るい話題を提供し、皆さんが喜ぶ顔を見たい」。Honda熊本は社会人野球の本質の一つ、郷土の代表として戦う。

文=岡本朋祐
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