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多事正論

【堀内恒夫の多事正論】清宮君に高卒即プロ入りを勧める理由

 

あの松井秀喜もプロにアジャストするのに苦労した


7月21日の西東京大会5回戦(対法政大高)で高校通算106号を放った清宮(写真=菅原淳)


 夏の高校野球、今は各地区大会たけなわ。北から南から代表校の名前が挙がっている。クーラーが効いた部屋でテレビ観戦。今年も甲子園大会は、私の夏の楽しみだ。

 しかし、何と言っても今夏の高校野球最大の話題は、早実・清宮幸太郎君だろう。久々に出現した逸材だ。これだけのホームランを量産できる秘密は、単にパワーだけではない。力だけではこれだけのホームランは打てない。あくまで高校レベルでの話だが、変化球も巧みに打っているところを見ると、ミートのうまさ、テクニック、読み、そういったプラスアルファがあるはずだ。何より、あの体の柔らかさが素晴らしい。

 今年のドラフトでは確実に数多くの球団で指名が競合するだろう。大学へ進学するという話もあるようだが、私の希望を言わせていただくなら、早くプロ入りをしてもらいたい。こういう大器は、早くプロの投手のスピードボール、キレのある球に慣れるべきだと思う。当たり前の話だが、プロ野球のレベルは高校野球のレベルからは想像できないくらい高い。そのレベルに慣れさせるための猶予期間が4年間あるとするなら、大学に進学するより、1年でも早くプロの世界に飛び込むべきだ。

 あの松井秀喜が星稜高から巨人に入った年の春のキャンプ、彼はいきなりバックスクリーンを越える打球を打った。「すごい高校生だ」とたまげた。その後、50ホーマーを打つ打者に育った松井だが、それでも1年目はプロのレベルにアジャストするのに苦労していた。プロ野球ファンの頭にも、ヤクルトの左腕・石井一久のカーブに腰を引いた姿が印象的なシーンとして残っているはずだ。

打者はなかなかプロのレベルに慣れない


新人時代、杉浦のカーブに度肝を抜かれた(写真=BBM)


 話は変わるが、私も入団1年目に、プロのレベルの高さを実際に体験した。南海と戦ったオープン戦だ。投げ合ったのは杉浦忠さん。あのころの杉浦さんは全盛期をとうに過ぎていた。しかし、打席で目にした、あの体に当たりそうになった先輩打者が尻餅をついたボールがストライクになったという、伝説のカーブ。「これがプロのボール」と言うに十分な球だった。

 そのボールは、浮き上がりながらお尻のほうから来た。「当たる!」と思わず腰を引いて、後ろに下がった。同時に、ボールを左手で払おうとした。しかし、その球はそこから急激に曲がって真ん中に入った。球審のコールはもちろん「ストライク!」。腰を抜かしそうになった。ベンチに帰って、「杉浦さんのカーブってものすごいんですね」と長嶋茂雄さんに正直に言った。長嶋さんは平然と答えた。

「元気のいいころはあんなもんじゃなかったよ。スギもすっかり年を取ったな」

 アマチュアの打者は投手に比べると、なかなかすぐにはプロのレベルに慣れない。大学野球で力がある選手でもレギュラーとして成績を残すのに早くても1、2年はかかる。高校から通算すると5、6年はかかる計算になる。松井はかつて「佐々木(主浩)さんのフォークは消える」と言ったことがある。あのゴジラですら、そこから必死になってレベルアップしていくのだ。早くプロ入りしてプロのすごさを体感すれば、早く対処ができる。清宮君には1年でも早いプロ入りを勧めるのは、そんな理由からだ。

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