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日本ハムが描くボールパーク構想の未来予想図 動き始めたビッグプロジェクト

 

2017年に球団が発表した新球場のイメージ図/提供=北海道日本ハムファイターズ


日本ハムが北広島市を選んだ最大の理由


アジアNo.1のボールパークの実現へ。日本ハムが選んだ理想郷は札幌ではなく、人口約5万8000人の北海道北広島市にある「きたひろしま総合運動公園」だった。2023年の開業に向け、動き始めた夢のビッグプロジェクトの構想と現在地をリポートする。

 ロマンに満ちた夢の輪郭が少しずつ見えてきた。

 3月26日、日本ハムの新球場構想の最大の焦点だった建設候補地の選定にピリオドが打たれた。現在の札幌ドームがある同じ札幌市の「道立真駒内公園」か、または札幌市に隣接する北広島市の「きたひろしま総合運動公園」予定地か。日本ハムが2択から選んだのは北広島だった。

 人口196万人の札幌市の約30分の1程度の5万8000人の地方都市である北広島市。その決断は賛否両論、さまざまな論議を呼んだ。決定から約1カ月以上が経過した現在でも静かに続いている。斬新で洗練されたチーム編成も含めて日本球界のトップランナーとして知られる日本ハムらしい英断を評価する声の半面、批判があるのも事実だった。そんな荒波の中でも、2023年の開業を目指すボールパーク構想はいま大きく一歩前進をした。

 まずは注目を集めた建設候補地を決めるまでの過程を振り返っておく。その大きな決断の背景にあったのは意外にもシンプルなものだった。日本ハムが描く夢を絵画に例えると分かりやすいだろうか。理想とするのはすでに国内にある数々の球場の概念にないボールパーク。壮大な夢を描くのであれば、そのキャンバスには一定のスケールが必要で、何の色も付いていない真っ白がベストであることは明白。各都市の自治体としての単純比較ではなく、日本ハムの理想に近いボールパークの適所はどちらなのか。球団の思考の軸がどこに置かれていたかを想定すると腑に落ちるはずだ。最大の焦点は「どこに作る」かではなく「何を作るか」だったのである。

 結論を出すまでの過程で北海道唯一の政令指定都市で「国内五大都市」の一つともいわれる札幌市に落ち着くとの論調も強かった。商圏としての規模から計った収益などの事業性、交通の利便性などを根拠とした各種見解からの推察だけが一人歩きしていたが、それはあくまで判断材料の枝葉だったのだろう。日本で巨大で巨額な投資案件の「箱物」を新設する際の固定観念であるが、それを排除した。ボールパークを建設するのは自治体ではなく、あくまでも日本ハム。その信念をぶらすことなく、真っすぐに貫いた先が北広島市だった。

建設予定地の上空からの写真。ボールパーク構想に必要な広大な敷地も決め手の大きなポイントとなった/提供=北広島市役所


 今回の壮大なボールパーク構想は2016年5月に明らかになったわけだが、日本ハムにとって「自前の球場」を持つことはかねてからの悲願であり、秘めたる夢だった。

 第三セクターである札幌ドームはいわゆる“間借り”している状態。もともとが多目的施設であり、自由に改修が行えないことでファンサービスも近年はマンネリ化し、球場内の飲食の収入はすべて球場側で、グッズも直営販売ができないなど規制が多い。加えて年間の高額な球場使用料もネックだった。

 そんな背景もあり、同年12月に新球場建設構想を正式に表明。約1年以上を経て二転三転しながら「きたひろしま総合運動公園」予定地に落ち着いた。その間に札幌市からは札幌ドームに近い月寒エリアと北海道大学の敷地内の提案があり、その後には「道立真駒内公園」の案も浮上したが、一貫していたのが北広島市のスタンスだった。

 広大な用地の自由度だけではなく、インフラ整備の確約、減免措置など行政支援を手厚くアレンジをしていきながらほぼ確約し、日本ハムの判断を待った。一方の札幌市は北広島市に比べれば、表現は適切ではないかもしれないが、煮え切らない条件提示にとどまった。自治体規模の違いもあるだろうが、諸々の事案の進め方のスピード、完結力にも明確な差があった。

ボールパーク構想の夢は第2章へと突入


新球場建設のために設立された新会社「北海道ボールパーク[HOKKAIDOBALLPARK]」。2023年の開業に向け、一大プロジェクトが動き始めた


 夢のボールパーク構想はすでに次のステップへと動き出している。候補地が内定した3月26日に株式会社北海道ボールパーク(HBP)を設立。出資は日本ハム本社、球団、大手広告代理店の電通の3社。HBPのトップには元日本ハム球団幹部でもある福田要社長を据え、球団代表を今年の3月に退任した島田利正取締役らを迎えたHBPは、電通から出向している職員も含めてスタートを切った。ボールパークが実際に着工するまでのデザイン、敷地計画などを行っていき、事業性の調査と検討をし、これまで球団主導で進めてきた構想はHBPに一任することで予定としている2023年の完成を目指していく。

 いま現在もHBPが北広島市の担当者らとヒザを突き合わせての意見交換、調整を行っている。大きな焦点になる新球場に近い新駅の設置に向けてはJR北海道、北海道庁、北広島市の3者が折衝を重ねており、開業へ向けて募っている建設系なども含めたふさわしい事業パートナーの選定も水面下で行われている。

 冬の寒さが厳しい北海道に対応でき、野球観戦にも適した屋根の形状(開閉式)。天然芝もしくは天然芝レベルとされるグラウンド、周辺にはホテルなどの総合施設など、1つずつ精査をしながら標榜している「世界がまだ出会ったことがないボールパーク」の実現に向けて一歩ずつ歩みを進めている。

 それでもまだ壮大な計画はデッサンを始めたばかりといったところだ。現状はキャンバスを「きたひろしま総合運動公園」に決め、描く画家がHBPに定まったというところである。5年後へ向けての下書きを終え、絵筆を入れ、色づけをしていくのは当面まだ先の話になるが、近年では例のない球団主導での革新的な新球場構想。2023年に北広島市にどんな景色が広がっているのか。夢のボールパーク構想の第2章が本格的に幕を開けた。

新球場の構想案
・収容人数/約3万人
・開閉式ドーム
・天然芝
・ホテルなどの総合施設
・総事業費500億円

VOICE・新球場を待つ街


北広島市役所 企画財政部 部長川村裕樹さん


 今回のボールパーク(BP)構想の誘致でいろいろなお話をファイターズと重ねてきましたけど、お会いするたびに球団の方たちの実現に向けた真っすぐな熱意を感じていましたし、私自身も感銘と心を動かされることがたくさんありました。だからではないですけど、建設候補地に北広島市が決まった瞬間のうれしさは本当に一瞬だけで、極めて冷静に「さあ、ここからだ」という気持ちだけでした。行政側としての責任の重さというか、ここからが夢のスタートになるんだと。

 新球場はただ野球を見るだけでなく、それこそ野球を知らない人でもここに来るだけで“ワクワクする“ボールパークになればと思っています。試合前、球場に向かうまでの道、試合が終わった帰り道でもずっと皆さんが笑顔でいられるような場所になればと。そのためには多くの方に足を運んでもらうための交通アクセスの整備、各機関との交渉は私たちに課せられた大きな役目だと考えています。

 2023年の開業に向けてこうして動き始めたわけですが、そこで完成するわけではなく、ボールパークと一緒にさらに夢がどんどん広がっていくような空間にしていきたいです。そこに関しては、北広島市だけではなく、「北海道がひとつ」になってファイターズが描く夢の実現を、みんなで知恵を出し合いながら全力でバックアップしていければと思っています。

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