週刊ベースボールONLINE

MLB最新事情

【MLB】球団間のサラリー格差拡大も、安いほうが強い逆転現象

 

お金を使って選手を集めて、負けても悔いはない、それはお金のせいではないというコーエン。しかも先を見据えての投資だという。ただ今季は、サラリーの安いチームが強いようだ


 ぜいたく税の基準額を引き上げた新労使協定の影響で、昨オフは巨額の長期契約が相次ぎ、サラリー総額で上位のチームと下位のチームの格差が拡大した。

 2022年は1位と30位の差が2億2600万ドルで史上最大だったが、23年はさらに広がりメッツとアスレチックスの差は2億9900万ドル。上位4位と下位4位の差も大きく、4位のフィリーズと27位のレイズの差は1億6739万ドルになった。MLBにとって避けたいのは極端に強いチームと弱いチームが増えること。ペナントレースがつまらなくなる。

 22年は100勝チームが「4」と多く、100敗チームも「4」だった。今年、それがさらにひどくなるのではという懸念があった。しかしながら意外な事態になっている。総額上位4チームのうち、メッツ、フィリーズ、パドレスの3球団が6月13日時点で負け越しており、下位4チームのうちレイズは貯金26個とMLBでトップ。オリオールズも貯金18個、パイレーツもナ・リーグ中地区首位だ。

 ほかにもサラリー総額21位のダイヤモンドバックスがナ・リーグ西地区の首位である。もっとも、オフに派手な補強をしたチームが勝てないという例は珍しくない。そしてメッツのスティーブ・コーエンオーナーが先日地元紙のインタビューで、興味深い発言をしていた。

 今季のサラリー総額は3億5900万ドルと史上最高で、その上ぜいたく税も1億ドル以上払う。後悔はないのかと聞かれると、「もしこの半分のお金しか使っていなければ後悔しただろう。でもこれだけ使ったから、勝てない理由がお金ではないことははっきりしている。加えて今までも言ってきたように、FA投資は堅固なファームシステムができるまでのつなぎ。FA市場で獲得した選手が活躍する保証がないのは、もともと分かっていた。

 ジェーコブ・デグロム(レンジャーズ)やカルロス・ロドン(ヤンキース)など他球団の例でもそう。私のヘッジファンドでも、よそから人を引き抜くより、内部で人材を育てたほうがうまくいく。野球も違わない。安定して勝てるチームを作るにはFA市場は難しい場所だ」と説明している。

 パドレスも昨オフ、総額10億ドルの破格の投資をしたが、ここまで地区4位と苦しんでいる。結局いくらすごい選手を集めてもチームとして機能するまで時間がかかるということだろう。もっともサンディエゴの地元ファンはオフの間、補強のニュースに大喜びで競ってシーズンチケットを購入した。おかげで成績が悪くても今季のホームゲームは売り切れ続き。興行としてはうまくいった。

 あとは結果が出るまで辛抱強く待つことだ。AJ・プレラー編成本部長は「われわれの信頼は揺らいでいない。ポストシーズンを勝ち進める才能が集まっている」と話す。同じくスター軍団のフィリーズは昨季21勝29敗と出足は悪かったが立て直し、ポストシーズンに滑り込み、ワールド・シリーズに勝ち上がった。メッツもパドレスも今後の巻き返しに期待する。

 いずれにせよ、サラリー格差だけで成績が決まらず、混戦になったのはMLBにとってはとても良いことである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
MLB最新事情

MLB最新事情

メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング