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ドライチ 成功者と挫折者の歴史

ドライチの考古学と考現学

 

ドラフトも50年の歴史を重ねると、父がドラフト初期にプレー、その息子もプレーして引退という年数になる。ドラフト以後に入団した選手たちは、それ以前の選手たちと比べて、どんな傾向にあるのだろうか。プロ野球80年の歴史のうち、50年を占める“ドラフト時代”。その中のエリート新入社員がドラフト1位。今号は今季のドラフト1位の特集だが、ここでは成功者よりも挫折者にスポットを当ててドラフトの考古学と考現学を試みた。(文中敬称略)
文=大内隆雄 写真=BBM

通算安打、勝ち星の20傑にはドラフト3世代組の数が意外に少ない。永年出場選手は多い


 1965年、ドラフト会議がスタートして、昨年14年の第50回までに各球団が指名したドラフト1位(1巡目)は、54人となる(66年は1次、2次があり、05〜07年は、大学・社会人と高校生が分離)。その12倍、634人が、いわゆるドライチとなるが、巨人が78年の第14回をボイコットしているから623人である。

 現在のプロ野球選手の平均在籍年数は7年ほどだから、この倍の15年をプレーすれば、まあ、野球人生を全うしたと言っていいだろう。通算記録の世界も15年以上プレーした人たちからの世界である。ドラフトは50年の歴史があるのだから、全うした人が3世代ある年数と言えるだろう。3で割れば平均17年となる。

 さて、プロ野球の通算記録の上位者を見ると、ドラフト3世代の人たちは、案外、少ないのである。例えば通算安打の20傑では、ドラフト以後の選手は9人。

 プロ野球の歴史はスタートの36年から65年まで30年だが、45年は戦争で休止の年だから実質29年。だからドラフト3世代の方が、人数では6〜7割であってもおかしくないのだが、そうはなっていない。イチロー(元オリックス、現ヤンキース)を加えたとしても10人だ。

 投手の勝ち星はどうかというと、20傑のうち7人。10傑だと3人。昔は投手の登板数が多く、先発型でもリリーフ勝利がかなりあるという違いはあるが(大変な違いだが)、打者よりもさらに苦戦というところだ。

 これとは対照的なのが本塁打と奪三振だ。通算本塁打20傑のうち、ドラフト3世代は12人。松井秀喜(元巨人)がメジャーに行っていなければ、プラスワンは間違いない。通算奪三振はどうか。こちらも20傑のうち12人だ。野茂英雄(元近鉄)が松井と同じケースでプラスワンとなるだろう(本塁打も奪三振も松井、野茂が20傑入りすることで20傑外となるドラフト3世代組がいるが、ここでは計算に入れない)。

 さて、ここまでの、やや小うるさい比較で何が見えてくるだろうか?それは、ドラフト3世代は、ホームランと奪三振に快感を味わう世代、これである。飛ぶボールと多彩な変化球という、昔の野球からの変化という事情もあるが、「チームバッティング」というのが、日本の野球の基本であることに変わりはないが、主力打者とエース級は、割合に自由に打ち、投げていると言えるだろう。

 こんな柄にもないことを書いていると「記録の手帳」の千葉功さんの失笑を買いそうだが、これに加え、ドラフト3世代には、長くやれるだけやるというポリシーのようなものがあるようだ。永年出場で見ると21年以上が31人中22人。昔の“太く短く”のパッと咲いてパッと散るタイプの男の美学は、現代ではやらないのだ。

 こういうドラフト3世代の人たちの中で、入団時はエリートと言ってもよいドライチ君は、どういう存在なのだろうか。

“太く短くいさぎよく”の代表は山口高志。本当に速かった。そのすごさは数字では見えない


プロ1年目の75年、日本シリーズでMVPに輝くなど素晴らしい成績を残した阪急・山口


 やっとドライチの話になったが、先の安打、勝ち星、本塁打、奪三振の20傑、永年出場21年以上の中に、ドライチは何人いると思われるだろうか。まず安打では2人。立浪和義(中日)と山本浩二(広島)だ。勝ち星では4人。山田久志(阪急)、東尾修(西鉄、太平洋、クラウン、西武)、村田兆治(ロッテ)、北別府学(広島)だ。本塁打では、4人。山本浩二、清原和博(西武ほか)、田淵幸一(阪神ほか)、原辰徳(巨人)。松井を入れれば5人だ。奪三振では6人。江夏豊(阪神ほか)、村田兆治、石井一久(ヤクルトほか)、槙原寛己(巨人)、川口和久(広島ほか)、山田久志。野茂を加えれば7人となる。出場21年以上では、6人。谷繁元信(現中日兼任監督)、八重樫幸雄(ヤクルト)、立浪和義、村田兆治、伊東勤(現ロッテ監督)、佐藤義則(阪急、オリックス)。

 ドラフト1位(1巡目)は、指名時点でのエリートであって、その後を保証するものではないと分かっていても、プロ野球で「大」のつく選手になるのは極めて難しいことであることが、よ〜く分かってもらえると思う。村田、山本浩、山田、立浪は2つ以上の部門に顔を出す。成功者は、あらゆるところで成功するのであって、大スターというのは、いつの時代でも、ごく限られた選手にしか与えられない称号なのである・・・

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