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当時のトラ番記者が綴る85年阪神 強さのワケ

 

創設80周年という長い歴史の中で、日本一に輝いたのは1985年が唯一となる。真弓、バース、掛布、岡田の錚々たる顔ぶれが並ぶスーパーダイナマイト打線を擁し、2年連続4位からのリーグ優勝、日本一に輝いた阪神。1985年当時のトラ番がその強さの理由をつづる――。
文=世良直(報知新聞)、写真=BBM

阪神日本一の瞬間。真っ先にベンチから飛び出してきたのは浪速の春團治こと川藤



四番・掛布を中心に強者ぞろいのオーダー


 その晩秋の朝、吉田義男が率いる阪神の立川宿舎となったホテルでは、朝食会場の上階レストランから霊峰・富士が冷気の中でくっきりと青空に浮かび上がっている絶景が望めたという。1985年11月2日、猛虎ナインはチーム史上初の日本一達成という偉業を目指して出陣するための腹ごしらえをしながら、前祝いのような縁起のいい景観に目を細めた。

「秋晴れの富士山を見ながら、ああ、オレたちはついに勝つんだな――。胸の奥で沸き上がる思いがあった。でも、それはアドレナリンが全身を駆けめぐるようなありふれた興奮とは違って不思議に冷静なものだった。みんな同じ思いだったんじゃないかな」

 決戦の地、西武球場(当時)の三塁側ロッカーでいつもどおりの几帳面な手順で荷ほどきしながら、主砲・掛布雅之が話してくれたことを昨日の出来事のように鮮明に思い出す。

バース、岡田とともに最強のクリーンアップを築いた掛布。抜群の存在感を放った



 中西太(野球評論家)や稲尾和久仰木彬(ともに故人)らの活躍で「野武士野球」と異名を取ったかつての西鉄ライオンズ。その豪放磊落さのDNAを受け継いだかのようなこの年の猛虎軍団は、一番・真弓明信からランディ・バース、掛布、岡田彰布の最強クリーンアップを経て八番・木戸克彦に至るまで、本当に個性的な“野武士”の集まりだった。

 当時、人気シナリオライターの市川森一(故人)は、ある雑誌のコラムで四番の掛布を「殺気を秘めながら座敷の隅で黙々と刀を研いでいるかのような、黒澤明監督の名作に登場させたいほどの存在感」と評したが、ミスタータイガースを中心に据えた強者ぞろいのオーダーは、これまたクセ者だらけの投手陣であった中西清起池田親興工藤一彦らを含めてまさに“九人の侍”と呼ぶのにふさわしいド迫力に満ちていた。

 久しぶりのリーグ優勝が目前に近づいたある日、真弓がニヒルな笑いを浮かべてつぶやいた・・・

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