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野村克也の本格野球論

野村克也が語る「1点の攻防」

 

エース対決で注意するのはまずムダな四球、そして足


 いつの時代も“エース対決”は、「1点」を巡り、手に汗握る攻防になるものだ。私が現役のころ、“エース対決”でマスクをかぶって特に注意した点は、まずムダなフォアボールを出さないこと。次に、“足”。すなわち、足の速い選手がランナーに出たとき、走らせないことだ。キャッチャーはバッターとの勝負のみならず、“ランナーとの勝負”にも最大限、気を使わなければならないのである。

 少し前の話になるが、この“エース対決”でどうにも気になる試合があった。5月12日、広島巨人戦(東京ドーム)。広島・前田健太、巨人・菅野智之両エース、今季3度目の顔合わせである。過去2度の対戦スコアは、4月9日=巨人0対1広島、4月22日=巨人1対0広島の1勝1敗。この試合も、広島が1対0と最少リードで7回裏、巨人の攻撃を迎えた。

 一死後、五番・井端弘和が左前安打で出塁。ここで巨人ベンチは、足のスペシャリスト・片岡治大を代走に送った。

 戦況を再確認すると、前田も菅野もともにエースらしい締まったピッチング。両チームとも、なかなか得点に至らなかた。こういう状況では連打、あるいはホームランで1点、という形はまず、頭から外さなければならない。従ってバント、盗塁、エンドランといった細かいプレーを挟んで点を取ることを考えるべきだ。「足にはスランプがない」とはよく言うが、良いピッチャーと対戦するときも、同じことが言えるだろう。

 両エースのピッチング内容からすれば、両監督とも1点取れば7割以上勝てるし、2点取れれば9割以上勝てる。つまり2点取りにいけばいい。となれば、足で揺さぶる以外ないではないか。

 再び広島対巨人7回裏、一死一塁の場面に話を戻す。井端も決して足のない選手ではないが、巨人はそこにあえて井端より脚力に勝る代走・片岡を送った。仮にランナーが井端のままだったとしても、1点勝負。広島側としては、(一走が)「走ってくる」ことを警戒しなければならない。ましてや代走とくれば、これはもう100パーセント、どこかで走ってくるはずだ。広島バッテリーはそこに、勝負をかけるべきだった。

 しかし広島バッテリーは・・・

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勝負と人間洞察に長けた名将・野村克也の連載コラム。独自の視点から球界への提言を語る。

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