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第81回 観客増にひそむ課題――新たなファン獲得へ観客動員だけに頼らない球団経営が重要

 

新たなファン獲得へ観客動員だけに頼らない球団経営が重要


 プロ野球セ・パ両リーグが開幕からのリーグ戦で、観客動員数を順調に伸ばしている。ホームとビジターでの対戦が一回りした第1クール終了(4月30日時点)で、昨年同期比はセ・リーグが8.0%増(主催の1試合平均3万327人)、パ・リーグが8.4%増(同2万2906人)とそれぞれアップとなった。球団別では、広島の32.8%増(同2万9362人)が最多の伸び率。球団やセ関係者らは「メジャー・リーグ(MLB)から8年ぶりに復帰した黒田博樹人気が大きく影響した」と分析している。

 増加率で見ると、広島に次いで日本ハムの19.5%増(2万6480人)、オリックスの18.5%増(2万3725人)と続く。日本ハムはリーグ首位を走るなどグラウンドでの好調ぶりが理由で、オリックスはオフの大型補強が反映した模様。昨年とは違った要因がファンの興味を引き、来場するきっかけになったと推測される。

 全体的には「順調」な伸び率と言える観客動員だが、個別に見ると将来の課題が浮き彫りとなってくる。それは、セ、パ両リーグの“人気球団”の状況を見れば一目瞭然だ。

 巨人は1試合平均で12球団トップの数の4万441人を集めたが、前年から比べれば1.9%減となる。パは最多のソフトバンクが3万1528人で3.1%減と、こちらもマイナスを示した。観客動員はプロ野球興行の柱ではあるが、球場のキャパシティには限りがある。客席を永久に増やすことは無理で、集客が頭打ちになるのは目に見えている。新たなファン獲得のためにも、観客動員だけに頼らない球団経営が重要だ。

広島など今年も観客動員を大きく伸ばしている球団はあるが、いずれ頭打ちになる。その他の部分で収益を上げることが必要だ[写真=前島進]


 入場チケット販売に並ぶプロ野球球団の主な収入源は、テレビ等の放映権料。最盛期は人気カードともなれば「1試合1億円」とも言われていたが、破格の高視聴率が望めない現在は、1試合3000万円がせいぜいだろう。球団にとって、年間経費を維持するだけの大きな収入源確保は難しい。そこで、恒常的な収入を見込める21世紀型のスポーツビジネスの登場となる。

 近鉄消滅など球団経営が発端となった2004年秋の球界再編をきっかけに、グラウンド外の事業に注目が集まった。巨人は当時の桃井恒和球団社長(現球団会長)が先頭に立ち、「チケット、放映権に次ぐ第3の収益の柱」として、グッズ展開などを中心としたマーケティング戦略を重視。野球のマーケティングを確立しているMLBの手法も参考にしながら、新たな展開として女性ファンの獲得を打ち出した。外部アンケートも取り入れてニーズを模索し、女性専用のシートや特典付きのチケット、イベントなどを企画。近年の「カープ女子」「オリ姫」など、球界全体としての若い女性ファンの増加につながっている。

 今後、目を向けたいのが、内外サッカーでは最大の収入源となっている「広告」だろう。サッカーのようにユニフォーム前面部にスポンサー名を入れるのは難しいが、広告部門はまだ収益拡大を図れる。例えば、本拠地球場を借りている球団が、主催試合の開催日に限って広告料が入る仕組みをつくることも一つの案だろう。

 球界全体に行政を巻き込んで話し合えば、税制面をはじめとしたお互いにメリットがある方法が絶対に見つかるはずだ。観客動員数もないがしろにはできない。だが、それにとらわれない球団経営が確立できれば、ファンサービスもさらにバラエティに富んだものになることは間違いない。
日本球界の未来を考える

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週刊ベースボール編集部による日本球界への提言コラム。

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