並外れた身体能力と打撃センスの糸井嘉男を放出してまで日本ハムが獲得を熱望した。
新天地での1年目は不本意な形で終わるが、わずか2年目で主将に任命される。
球団がほれ込んだ人間力はいかにして形成されたのか。日本ハムの新キャプテンの原点に迫る。 文=高橋和詩
写真=湯浅芳昭、川口洋邦、BBM 転機となった13年の大型移籍 人の上に立つ。強いリーダーシップを発揮することだけではない。時に厳しく、時に激しく。生きていく中で数多く直面する流れに抗うことなく、包容力に満ちた人間性で包むという方法論もあるのだろう。そうすれば、神輿をかついでもらうかのように、周りの人が下から支えてくれる。自然体のまま、人の上に立てる。それを体現するような人生を刻んできた、1人の野球人がいる。
大引啓次。29歳。
今季から日本ハムの新キャプテンを任された。あの記憶に新しい
オリックスとの大型トレードで加入した1人で入団2年目にして、個性派集団を束ねる要職を託された。こう自分自身を語る。「周りに評価してもらっているほど、僕は強い人間じゃないです。ただね、キャプテンになったからこそ、あらためて自分が強くなれるチャンス」
強烈な個性を放つことはなくても、磁石が砂鉄を集めるように人を引き付ける魅力。献身的なプレースタイルにも通じる、唯一無二の魅力、強さとは。科学でも、数字でも、なかなか具現化できない不思議なパワーを放ちながら弱肉強食の世界を生き抜いている。年齢の上下、性別の垣根なく人と接し、高い人間力を評価されるまれな人材として、球界では広く知られている。そのルーツを、丹念にひも解いてみれば答えは出てくるのである。
大きなターニングポイントがあった。プロ7年目のキャンプイン直前。13年1月25日のことだった。ちょうどオリックスの選手会長に就任。
森脇浩司監督の就任1年目という節目のシーズンへ向け、スタートを切る直前だった。キャンプ地の沖縄・宮古島へ先乗りして、合同自主トレに参加するつもりで、球団施設を訪れていた。搬送してもらう用具など、荷物をまとめていたとき、球団幹部から声が掛かり、呼び出された。「話があるから」。
トレードというキーワードが飛び出してきた。当初はキャンプイン前だけに、その騒動の沈静化に努めてほしいというお願いをされているのだと、思い込んだ。選手会長という立場だけに、自分が交換要員とは考えづらかった。当時を回想する。
「最初、トレードと言われて僕じゃないと思っていたんですよね。選手会長なので『誰々をトレードをするけれど、こんなキャンプ間近で申し訳ないけれど、チームをまとめていってくれ』ということを言われると思った。けれど、どうも僕なんですよね。『うん? 僕?』という感じでしたね」
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